No Wayout - 3


「つかさちゃん、そろそろ起きた方がいいんじゃないかな」
 つかさは、志貴に優しく介抱されて、意識を取り戻した。
 のろのろと首を巡らすと、すぐ目の前には心配そうな目で見ている志貴がいた。既に服を着て、手に濡れたハンカチを持っている。それで、つかさの全身を清めてくれたようだ。
「――」
 岩のように重い身体に鞭打って、つかさは辛うじて身を起こした。教卓の上にはつかさの着衣が、きちんと畳まれて置かれていた。きっと、志貴が集めてくれたのだろう。
「大丈夫?」
「は、はい――」
 身体が冷え始めていた。さっきまでは志貴と繋がって、全身運動をしていたわけだから、寒さも気にならなかった。それどころではなかったというのもあったが。しかし今、まだ冬の教室は、いくら風がないとはいえ、肌寒かった。志貴が汗を始末してくれて、助かった。
 志貴さんとは何度したのかな――胡乱な頭で、そう考えた。五回目までは憶えている。いや、たしか七回くらいまでは。最後は何回? 十回?
「つかさちゃん、早く服着て、寮に戻った方がいいよ。俺、早く戻らないといけないんだ。成績が今一というか、いくら上げても我が家のお姫様には気に入ってもらえなくてね。予習復習しないと、小遣いをもらえないんだよ」
 志貴は優しくそう語りかけながら、つかさに制服の上着を被せてくれた。つかさは、その志貴の顔を、痴呆のようにぼーっと見ていた。そう、志貴は愛しい人。つかさの大切な人だ。だが今は――早く行って欲しかった。一人にして欲しかった。
「――大丈夫です。私、ここの生徒ですから」
 か細い声で、あまり根拠にならないことを答えていた。が、志貴は納得したのか、表情を和らげた。その志貴が去る前に、つかさは一つだけ聞いておきたかった。
「あの、志貴さん、今度はいつ、お会いできますか」
「そうだね。来週の同じ日はどう? つかさちゃんとは毎週会いたいな。でも、ここでというのは止めた方がいいかな。ここは寒いし、寝転んでも気持ちよくないし。つかさちゃん、外に出てこられる?」
「たぶん、大丈夫です――」
 無断外出の手段は、常習犯の月姫蒼香か、後輩の瀬尾晶に聞こうと思った。
「そう、じゃあ適当な公園で落ち合って、ホテルでしようよ。高いところに泊まろうよ。パトロンもいるんだから」
 そうして、また十回、私を抱くんですね――つかさは心の中でつぶやいた。また志貴に抱かれる。まるで肉人形になったような気持で。でもそれが嫌なのかどうか、つかさにも分からなかった。いずれにせよ、きっと明日になれば、また来週の今日を待ち焦がれるはず。
「はい、構いません」
 つかさがそう答えると、志貴はつかさの肩を抱いて、頬にチュッとキスしてくれた。とうとう、唇にはくれませんでしたね――つかさは、なぜか安堵のようなものを感じつつ、志貴に苦笑していた。
「じゃあ、気をつけてね。身体を冷やさないでね。――後は頼む」
 志貴は去っていった。つかさは、ぼんやりと見送った後、ふと疑問をおぼえた。――後は頼む――志貴がそう言い残した相手は、つかさでは無いのではないか。まるで、つかさ以外の誰かが、この場にいるとでもいうような――
「四条さん、そろそろ服を着たら?」
 その時、不意に声をかけられて、つかさは心臓を氷の手でつかまれたような衝撃をおぼえた。その声には聞き覚えがあった。今、この場には、絶対にいて欲しくない人物だった。
「と、遠野さん?」
 信じられない思いで、声のした方を向いた。教室の後ろの方から、長い髪を揺らしつつ、暗い影が近づいてきた。後ろの方――遠野秋葉の席から。
 ほのかな明かりに見え隠れする顔は、やはり遠野秋葉だった。たった今までつかさを抱いていた、つかさの思い人の妹。そしてつかさが一番苦手な相手だった。いや、恐怖の具現だといってもいい。
「ど、どうして遠野さんがここにいるの?」
 震える声でそう叫ぶと、秋葉は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「どうしてって、兄さんとあなたが心配だからに決まってるじゃないの」
 秋葉はつかさの間近に歩み寄ると、教卓に肘を突いて、つかさを見下ろした。冷たい目線が、つかさの裸身を突き刺す。
「ふうん。やっぱり、四条さんは身体の線が細くて、きれいなタイプなのね。兄さんのお好みのタイプってわけね」
 どこか小馬鹿にしたような。しかし暗い怒りを感じさせるような口調だった。つかさは、本能的な恐怖に、身を竦ませた。
「どうして、いつからいたの?」
 つかさは、目の前が絶望に真っ暗になるのを感じながらも、なけなしの勇気をかき集めて、そう問い返していた。
「最初からに決まってるじゃないの。兄さんとあなたが、ちゃんと穏やかにコトを終えられるかどうか、見届けなきゃならなかったのよ。お二人の邪魔をしないように、ちゃんと隠れてたでしょう?」
 大丈夫。あいつは君に手を出さないさ――パトロンもいるんだから――つかさの脳裏に、志貴の言葉が蘇ってきた。そう、志貴には分かっていたのだ。だって、自分とつかさの逢瀬を、秋葉はすぐ傍で見ていたのだから。
「どうして、どうして志貴さんが私を抱くのを、遠野さんは認めたわけ?」
 信じられない思いで、つかさはさらに問うていた。秋葉が、彼女の兄に執着していることは、秋葉に近い人間の間では常識だ。どうしてその兄と、秋葉が嫌いなはずの自分が、目の前で愛し合っているのを見ていられるのだろう。
「考え違いをしているわね」
 秋葉は、どこか憮然とした口調で答えた。
「兄さんがあなたを抱いたのは、兄さんがあなたを見初めたからじゃないのよ。私が兄さんに、あなたを薦めたからなのよ」
 えっ――想像を絶する言葉に、つかさの思考は凍りついた。秋葉が志貴に、つかさを薦める――どういうことなのだろう。
「分からなかった?」
 秋葉はくすっと笑いながら、つかさのすぐ目の前に屈みこんで来た。
「四条さん、兄さんに抱かれている時、なにを感じたかしら?」
 志貴さんに抱かれているとき――つかさは、いくばくか自分を取り戻すと、反射的に答えていた。
「とても――気持ちよかった。志貴さんは、上手に愛してくれたから」
「それだけ? 四条さん、あなた、最後の方、兄さんに抱かれながら失神していたじゃないの。本当に良かっただけなの?」
 そんなこといわれても――つかさは戸惑って、視線を落として考え込んだ。志貴に抱かれている時の充実、快楽は忘れられない。でも、そう確かに――
「怖かった――」
 ぽつりとつぶやいた。
「志貴さん、私を何度抱いても、ちっともへこたれないんですもの……。私、志貴さんの、あ、アレが、私の中に何度出しても萎れないのに気づいて、なんだか怖くなった。このままじゃ、志貴さんに壊されてしまうんじゃないかしらって――」
 あけすけに語ってしまってから、つかさは青くなりながら秋葉に目をやった。よりによって、秋葉の前でそんなことを口走るなんて。が、秋葉は少しも動じず、「そう、そうよね。怖くなるわよね」と、奇妙に親しげな口調で答えた。まるで、親しい者同士、打ち明け話でもするように。
「そうなのよ。兄さんたら、精力絶倫にしても、程があるわよね。兄さん、放っておいたら、私を十度抱いてもへこたれないんですもの」
 秋葉は、ふう、とため息をついた。秋葉が志貴に抱かれている。つまり近親相姦だ。そんな重大事を事も無げに明かす秋葉を、つかさは魔物でも見る思いで見つめた。
「さすがに私が疲れきっているのを見て、最近は五回くらいで許していただけるようになったわ。でもね、兄さん、それでは欲求不満みたいなの。なんだか悶々としてらっしゃるようで、なんだか気の毒なのよ」
 秋葉は、つかさを見て、にっこり微笑んだ。
「だから、『他の女の子を抱かれてはいかがですか。たとえば、四条つかささんとか』ってお勧めしたら、案の定大喜びで賛成してくださってね。兄さん、どうも私の身体にご執心みたいで、私みたいに細い身体の女の子がお気に入りでいらっしゃるみたい。だから、以前親切にしていただいたらしい、四条さんのことを、殊のほかお気に入りだったみたいね」
 秋葉は、言葉使いこそ尋常なものであったが、その底にはどす黒い怒りが滲み出していた。それがなぜなのか少しも理解できず、つかさはただただ怯えた。
 秋葉はつかさの目の前に腰を落とすと、ふっと眼光を和らげた。
「ふふふ、馬鹿みたいでしょ。兄さんに四条さんを薦めたのは私自身なのに、四条さんに対する嫉妬はどうにも押さえようが無いの」
 浅ましい女よね――秋葉は、小さな声で一人ごちた。
 つかさは、秋葉の美しい顔を、信じられない思いで見つめていた。
「そんなの嘘。だって手紙をくれたのは志貴さんだし、私と会いたかったっていってくださったし――あんなに熱心に愛してくれたじゃないの」
「それはもちろん。だって私が手紙を書くのは変だし、あなたと会いたかったっていうのは兄さんの本心なのよ。あなたの身体って、兄さんにはよっぽど気持ちよかったみたいですしね。もっとも、私が許さなかったら、兄さんはそんなことしなかったでしょうけどね」
 秋葉はくっくっと喉の奥で笑った。
「どうしても信じられない? 恋人が目の前で他の女を抱いているのを平然と見ていたのが。――そうね、とても平然としていられない。何度あなたに飛び掛って、ズタズタに引き裂いてやろうと思ったことかしら。あなたがはしたなくも兄さんの精液を垂らしながら、後ろから兄さんに突いて欲しいってお尻を突き出しているときとかね」
 その、ぞっとするくらい冷たい口調に、つかさは冷たい氷を飲んだような恐怖に震えた。
「でも、そもそも精力絶倫な兄さんが我慢されているのを見て、お気の毒に思ってこうするようにお勧めしたのは私。四条さんを薦めたのも、事の次第を見届けるって決めたのも私。なのにいきり立つなんて馬鹿みたい。それに、兄さんは私との約束を守って下さったわ。だから私は、自分を抑えることが出来たのよ」
「約束?」
「そうよ、約束よ」
 秋葉はクスクスと笑った。
「ねえ四条さん、気づいた? どうして兄さんはあなたの唇に口付けしなかったのかしら。あれだけ、それこそお尻にまで口付けした兄さんが」
 ガンッと殴りつけられるような衝撃を覚えて、つかさは呆然と秋葉を見た。
「嘘――そんなの嘘」
「それが兄さんと私の約束なの。四条さんの身体にどれほど溺れても、口付けだけはしないでくださいねって。だってそれは、私にとっては本当に愛しているって言う証なんですもの。兄さんの口付けは、私だけのもの。兄さんはそれをちゃんと守ってくださったわ。あれほど、あなたの身体を嬉々として貪っている時にさえも」
 つかさの瞳から、大粒の涙が溢れてきた。つかさを抱いているときでさえ、志貴にとっては、秋葉こそが優先するべき対象だったのだ。自分が志貴の初めてだなんて思ってはいなかった。でも、きっと一番大切に思ってくれているはずだと信じていた。なのに、志貴は、あの最中にさえ、秋葉との約束の方を、大切に守っていたのだ。つかさの一番大切なものが、土足で踏みにじられた。つかさの心は、ぼろぼろに壊れてしまった。
「そんなの――そんなのってない……。ひどいわよ。あんまりじゃないの……」
 つかさは、まるで母親に捨てられた幼子のように、泣きじゃくった。それは、かつて覇気のあった彼女を知るものには、信じられない姿だったろう。
「ごめんなさいね、四条さんにひどい思いをさせてしまって」
 言葉とは裏腹に、秋葉の口調には黒い嘲りが満ちていた。
「でも、あなただって、想いの人に女にしてもらえて、良かったんじゃないの? この浅上に通う者の多くは、望みもしない政略結婚で、見たことも無い男に抱かれて、女になるのよ。あなたはずっと恵まれてるわ。それに、凄く良かったんでしょう? 兄さん、女の体の扱いが、凄くうまいの。まったく、どこで憶えたことやら」
 そう、嘲っている。秋葉は嘲っている。でも、秋葉の目のぎらつきは、それだけではない。むしろ嘲りは、虚勢だった。秋葉は抑えがたい衝動を持っている。それをごまかそうとして、虚勢を張っているだけだ。つかさは、急にそのことに思い当たった。その目は、志貴がつかさのオンナを貪っている時に見せたものと同じだ。遠野さんは、私のオンナに興味があるんだ――その認識は、つかさにとって恐ろしいもののはずだった。だというのに、その瞬間、つかさのオンナが、さっき志貴によって花開かれた時のように、じゅんと潤ってきた。また花びらが開き始めている。
 秋葉は、ふっと表情を和ませた。
「四条さん、あなたは本当に可愛い人ね」
 つかさは、魅入られたように、秋葉の目を見つめた。秋葉の顔が、すぐ目の前に迫っていた。ぞっとするくらい美しい容貌。恥ずかしいくらい平凡な自分とは違う、隔絶した世界で、隔絶した地位にあることを平然と受け入れている顔。その意志、その強さ――
 ああっ、とつかさはため息をついた。秋葉に魅了された。そして、自分が秋葉に抱いてきた、煮え切らない想いの正体に、ようやく思い至った。それは、手を伸ばしても伸ばしても、絶対に手が届かない星への憧れに似ていた。あまりに憧れすぎて、ついに憎しみにすら近しくなった想い。つかさは、周囲の恵まれた娘たちへの憧れと、憎しみとを、この遠野秋葉一人に投影していたのだった。
「遠野さん――きれい……」
 そうつぶやきながら、つかさは自分が狂ってしまったのではないかと思った。微笑んでいるのに、両目からは涙が溢れつづけていた。目の前の女がこんなに憎いのに、愛しい。
「四条さん――あなたは、可愛い人なのよ」
 秋葉はつかさの頬を指先でなぞった。それだけのことなのに、つかさの身体の芯に、ポッと火が点った。秋葉の手は、なにか不可思議な魔力を秘めているようだった。
「私はね、自分でもどうしてあなたに兄さんをけしかけたのか分からなかった。でもね、あなたが兄さんとしている時、じっと自分の心を覗き込んでみて、やっと分かったわ。私は繋がって愛し合っている二人に嫉妬した。でもそれは兄さんを取られているという嫉妬だけじゃなかったの。あなたを兄さんに取られているという嫉妬もあったのよ」
 秋葉はつかさに顔を寄せると、優しくささやいた。
「四条さんはふつうの女の子よね。それが四条さんの重荷になっているのが私には分かるわ。そしてそれが、あなたのコンプレックスに結びついて、紫の私書箱の一件に結びついたのもね。でもあなたは、ふつうである事の価値を分かってないのよ。四条さんは、特別であることが当たり前のこの学校で、ふつうであるからこそ魅力的でいられるのよ。どれほどの娘たちが、ふつうの家庭でふつうの暮らしをすることに憧れているか――私だってそうなのよ。四条さん、あなたは私との一件で少し壊れてしまったわよね。本当なら、私はあなたのことを憎んでもいいし、冷淡に無視してもいいはず。でも出来なかった。どうしても、少し壊れているあなたが気になっていたわ。あんなわずかな毒で壊れてしまうほど、か弱いあなたが気になっていたのよ」
 秋葉は含み笑いしながら、つかさの髪を指で掬った。
「ふふふ、だから兄さんをけしかけたのね。あなたはふつうすぎて、純粋すぎて、私が手を出したら壊れてしまう。だから兄さんに処女を破ってもらって、穢してもらわなきゃならなかったのよ」
 秋葉の手にそっと抱き寄せられると、つかさは僅かに仰向かされて、そっと口付けをされた。
 んっ――つかさは目を閉じて、秋葉の口付けを受け入れた。麻薬のような味。一瞬で脳髄を麻痺させて、つかさの全身は絡み合う舌先に吸い込まれてしまう。
「んっ、んふっ、んっ――」
 秋葉が優しく、情熱的に、つかさの唇を吸った。舌を吸出し、自分の舌と絡めあう。まるで軟体動物のように絡み合う舌と舌。脳髄がとろけてゆく。悪夢のような快楽。
 秋葉はつかさを抱きしめると、その胸の蕾を強く吸った。つかさは体が蕩けてゆくような快感に捕らわれた。
 墜ちてゆく――つかさは秋葉に抱かれながら、自分が二度と這い上がれない沼へと落ちて行くのを感じていた。

 雄と雌の行為は、そのどこかに機械のようなドライさを秘めている。概ね往復運動。時に回転運動。時に歳差運動――そして雄の射精というリミットが待っている。
 だが雌と雌の行為には、そんなドライさはかけらも無かった。際限の無い摩擦、際限の無い吸引、際限の無い圧迫――そして女の絶頂は、何度でも、体力の続く限り、いくらでも。
「ふふっ、兄さんの匂いがする」
 秋葉はつかさを背後から抱きしめると、つかさの乳房を揉みしだいている。今は全裸になっている秋葉同様、控えめな胸だ。秋葉に拘泥する志貴が、なぜつかさを抱きたいと思ったのか、よく分かる。背の高さこそ差があったが、二人の体つきはそっくりだった。胸も腰も、ボリュームには欠けるが、少女期特有の張り詰めた美しさがあった。ただ胸が大きく、腰が張っただけの女に欠けた、緊張感が漂っている。まるで、抜き身の古刀を見るような。きっとそれが、志貴にはたまらないのだろう。
 秋葉はつかさの唇を肩越しに吸うと、首筋に舌を滑らせた。両の手はつかさの乳首をきゅっとつまみ、乳暈を汗ばんだ指先でこすり上げる。全てがつかさの神経に触れてくるようだ。志貴の剛直に貫かれているときの、どこかワンテンポ遅れたような、しかし力強い官能とは違う。ずっと繊細で、ずっと直接的な快楽だった。
 つかさは体を硬直させると、熱い吐息をつきながら、秋葉にもたれかかった。花弁がひくついて、まるで涎をたらすようにだらしなく、蜜を溢れさせているのが分かる。
「あら、もういっちゃったの? 本当に敏感なのね、四条さんは」
 秋葉はつかさを軽々と、子供のように抱き上げると、教壇に仰向けに横たえ、逆様に覆い被さった。つかさの両足を開かせると、薄い茂みを掻き分けて、緩んでいる花弁に舌を滑り込ませる。
 うんっ――つかさは喉の声で声を上げると、我知らず花弁をひくつかせていた。秋葉の舌が、つかさの襞を一本一本舐り上げてゆく。吸われる度、弄られる度、つかさの雌芯から脳髄へと、快楽が直接打ち込まれてくる。
 はぁ、と吐息をついて、思わず自分の胸を弄り、つねった。乳首を強くひねると、痛みの向こうから、とろけるような快感が押し寄せてきた。つかさは、声を上げながら、秋葉の愛撫に身を任せた。胡乱な頭のまま目を開けると、目の前に秋葉のオンナがあった。少女らしく慎ましく閉じられているそこは、しかし緩み始めていた。果肉が弾けて、甘いオンナの匂いが漂い始めている。熟しきった果実のように、美味そうだ。果肉に蜜が滴っているのを見たつかさは、ごくりと唾を嚥下すると、秋葉の花びらに吸い付いた。
「んっ、ふっ――」
 秋葉は予期していたのか、それほど動揺を見せなかった。つかさは秋葉の花びらに舌先をこじ入れると、溢れてくる蜜を、音を立ててすすった。ぽってりと充血している花びらを丹念に吸うと、絶え間なくひくついている器官に舌を差し込んだ。
 秋葉の喘ぎ声が聞こえた。秋葉は悩ましげな声を出すと、一瞬だけ体を硬直させた。しかしつかさの性器への攻撃は緩めない。舌の平で陰核を存分になぶると、強く吸い出した。
「あひんっ!」
 つかさはあっけなく達してしまった。が、その衝撃から立ち直ると、また憑かれたように秋葉のオンナを吸い始める。お互いに尾を飲み合う二匹の蛇のように、淫らで、際限の無い快楽への道。
 秋葉の舌が、つかさの膣へと打ち込まれた。まだ志貴の精液を貯めているそこに、秋葉の舌が打ち込まれてゆく。
「あは、兄さんの味がする」
 感極まった様子で秋葉が叫んだ。
「四条さん、兄さんの精液は私のものだから、返していただくわね」
 秋葉はそう宣言すると、つかさの膣口に口付けして、強く吸った。つかさの中に負圧がかかった。内臓を吸い出されるような、不気味な感覚。だがそんなことよりも、つかさは自分の大切なものを奪われるような気がして、思わず叫んでいた。
「い、いやっ、やめて! 志貴さんが私の中に出してくれたものは、私のものなの。だから吸わないでっ!」
 だが秋葉は志貴のものを吸い出していた。つかさは、自分の子宮が、膣が、意志とは無関係に、中にたまった志貴の大量の精液を押し出すのを感じた。ありえないような、超自然的な感覚。内臓深くをなにかが這い回る感覚を覚えて、つかさはその不気味さに悲鳴を上げていた。同時に、自分の中から全てが吸い出される感覚に、つかさのオンナの部分は立て続けに達していた。二つの別々の感情が爆発して、つかさの意識はどこかに墜落していった――

「早く寄宿舎にお帰りなさい」
 数え切れない絶頂の後、事を終えて、すっかり衣服を身に着けた秋葉が、教壇にへたり込んでいるつかさにいった。さっき、あれほど卑猥な行為に耽ったばかりなのに、秋葉は既に淑女然とした身なりを整え、淫靡な空気は微塵もまとってない。そこにいるのは、女の匂いを発散していた、先ほどの秋葉ではない。つかさが憧れ、憎んでいた、完璧な淑女としての彼女だった。
 つかさは秋葉の手で服を着せられると、また教壇の上に横たえられた。あれほど、少年一人、少女二人の体液で汚された教壇は、秋葉が清掃してしまい、既にすっかり元に戻っている。つかさには、夢、それも悪夢でも見たような気分だった。
「大丈夫、四条さん?」
 気遣わしげに、秋葉が覗き込んで来た。
「大丈夫です――」
 つかさは辛うじて応えた。
「腰が立たないので、少し休んで行きます……」
「そう。まあ、兄さんにあれだけ愛していただいたのですものね。四条さんは初めてだったのだし、腰が立たなくなっても仕方ないわよね」
 秋葉はくすくす笑うと、つかさの唇にそっと唇を重ねた。ぞっとするような親愛の情が込められている。
「おやすみなさい、四条さん。今夜は警備員は来ないから、ごゆっくり。来週は兄さんもおっしゃっていたように、それなりのホテルで楽しみましょう。今度は、三人でね」
 秋葉は嫣然と微笑むと、教室から出ていった。その足音を聞きながら、つかさはふと思った。つかさのファーストキスは、結局秋葉に奪われてしまったんだな、と。
 取り残されたつかさは、しばらく呆然と天井を見つめていた。思い返しても、この三時間足らずの出来事は、夢のように現実味を欠いた。だが――
「――――」
 つかさは、頭をもたげると、両足を持ち上げ、それから左右に開いた。そして閉じて、また開くという動作を繰り返し始めた。ほとんど光を失っていた両目に、不気味な底光りが灯って行く。
 ――ほどなく、つかさの立てる音に、なにか淫靡な、粘着質の音が混じり始めた。秋葉によって穿かされたショーツの真ん中に、くっきりと濡れた線が現れていた。つかさの、初々しい割れ目に沿った。
「うふふふふふ――」
 不意に、つかさは淫靡な笑いをもらした。その動作が、さらに早まって行く。
「うふふふふ、うふぅ――」
 息が荒くなって、つかさの頬が紅潮してきた。染みはショーツにどんどん広がって行く。もう、ショーツの下で、つかさのオンナが花開いている、つかさの花びらの形もくっきりと出ている。花びらはつかさの太ももに押しつぶされ、また開かれる。その度につかさの肉の芽は刺激され、興奮が高まってゆく。
 つかさの唇からは、淫靡な喘ぎ声しか聞こえなかった。もどかしげにショーツを脱ぎ捨てると、痛々しく腫れ上がった花びらを揉みしだき、妖しく輝いている肉の芽を押しつぶす。撫で回す指も、開かれている花びらも、そしてつややかな内股も、蜜でとろりと濡れ始めている。
「うふふふふふ、あははは――」
 よだれが糸を引いて口元から零れ落ちる。それは清潔そうだったつかさの姿からは、想像も出来ない光景だった。
「壊されちゃった――壊されちゃったよう――」
 嬉しそうに笑いながら、つかさの両目からは、一筋の涙が落ちた。
「遠野さんと志貴さんに壊されちゃったよう――」
 遠野秋葉に壊された。でも遠野志貴が癒してくれた。でも遠野志貴に穢された。でも遠野秋葉に清められた。なのに遠野秋葉は、つかさから全てを奪っていった。初めての人への想いも、子種も。あのままなら、きっと卵管で受精できていただろう卵子まで、秋葉は吸い出してしまったのだろう。
――四条さんを妊娠させるわけにはいかないでしょう?
 優しげに告げる、秋葉の姿を幻視した。
「あははははは、うふふふ――」
 つかさは、熱い息を吐きながら、自分のオンナを虐め続けると、不意に身を反らして、ぱたりと倒れこんだ。達してしまったらしい。
「――――」
 横に転がったまま、つかさは暗い教室を、ぼんやり見つめた。狂騒が去り、つかさの意識は深い闇に沈み込んでゆく。
 狂うことすらできない――いくら狂いたくても、狂うことは出来ない。つかさは、いくら小心ではあっても、理知的に過ぎるのだ。だがそれは、なんという恐怖。狂うという最後の救いすら、つかさには手を差し伸べてくれないのだ。
「誰か、助けて――」
 つかさは恐怖のこもった目で、闇に助けを求めた。
 このままだと死んでしまう。満たされて、奪われて、壊されて、癒されて――その繰り返しに、ただの人間がいつまでも耐えられるわけが無いじゃないの……。
 それくらいなら、いっそ狂わせて――つかさはどこまでも深い闇に包まれて、狂気に救いを求めていた。その目は、遠野兄妹に愛され、弄ばれ、壊されてゆく自分を幻視していた。そして、結局はその時を待ち焦がれているに違いない、自分の姿をも。
 平凡な己とは隔絶した愛に苛まれ、弄ばれる彼女の目には、暗い闇からの出口などどこにも見当たらなかった。

<了>

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