彼女のミステイク

2

 ホテルの部屋は狭かったが、値段相応に小奇麗でもあった。まあ、わたしの初体験にはうってつけか、と蒼香はぼんやり考えた。
 まかせろ、などと言った割に、志貴の動作はぎこちなかった。そういえば、さっきホテルの料金を調べている間も、ずいぶん青ざめた、緊張した顔をしていたなと思い出した。
「志貴さん、大丈夫? 無理させてない?」
 心配になって、蒼香は思わずそう聞いた。
「大丈夫だよ。俺は遠野の長男だよ」
 はははは、という笑いが、妙に悲しく響いた。
 部屋にはテーブルがあったが、壁に着けられている。二人が向かい合って座るのは無理だ。そうなると、ベッドに並んで腰掛けるしかない。ベッドはダブルベッドで、広さは十分だった。その上に、ガウンとタオルが二式、きちんと畳んで並べられているのを見た時、蒼香はどきりとした。蒼香を待ち受ける営みを、露骨なくらいに示唆しているように感じたからだ。
 なんとなく、そのベッドに並んで座る。お互いにぎこちなく、目線を合わせないで。
 参ったな――と、蒼香は密かに後悔していた。こんなことに志貴を巻き込んでしまった。蒼香が自分の思い通りにならないと知れば、父の怒りは蒼香の男に向かうだろう。だが志貴は遠野家の長男だ。父は強きになびく性質だ。遠野家とは争わないだろう。とはいえ、志貴の名前を出してしまったわけだし――
 ふと志貴の方に目をやると、目が合った。志貴はふっと苦笑いのようなものを浮かべた。
「緊張しちゃうね。蒼香ちゃん、その、初めてなんだろ?」
「え、うん、そう」
 頬が赤らむのを感じながら、蒼香はうなずいた。
「志貴さん、その、ごめん。こんな形でわたしの事情に深入りさせちゃってさ」
「……いいんだよ」
 志貴は、しばらくオートロックの掛かったドアを見ていた。やがて、なにか決心した顔になると、不意に手を伸ばし、蒼香を抱きしめた。
「……なっ――」
 不意討ちだった。頬どころか、うなじまで真っ赤になりながら、蒼香は自分の胸の鼓動を聴いた。それと重なるようにして、もう一つの鼓動が聴こえる。普段なら意識しないのに、自分の微かな体臭までも感じた。だって、この抱きしめられている腕の中では、今まで感じたことの無い、志貴の男臭い匂いに囲まれているのだから。
「志貴、さん――」
 志貴の手が、蒼香の髪を撫でている。
「やっぱり、俺がリードしないと、ね」
 志貴は、いつの間にやら余裕を取り戻し、なにか楽しむような口調でいった。
 志貴の手が、蒼香の髪をまとめている紐を取った。蒼香の髪が、はらりとうなじにかかる。我ながら、髪を上げるか下げるかで、ずいぶん印象が違うものだと思っている。
「うん、ずっと女の子らしくて可愛いよ」
 志貴は、優しい目で蒼香を見ながら、そういってくれた。これって、甘い愛のささやきって奴かな? なんだか胡乱な頭で、蒼香はぼんやり考えた。
「大丈夫。力を抜いて」
 志貴に声を低めて囁かれると、蒼香は全身から緊張が抜けてゆくのが分かった。
「蒼香ちゃん、髪が綺麗だね。こうして抱くと、いい匂いがするよ」
 志貴はそう続けた。その言葉を、蒼香は鮮烈に感じた。今まで、蒼香は髪や容貌を褒められた事が無い。少なくとも、蒼香を女と見て、褒めてくれた相手はいない。いや、羽居はいつもそういってくれるけれど、異性にほめられたことなんてない。
 志貴の手は、しばらく蒼香の髪と、背中を愛撫していた。急に蒼香の顎に手をやって仰向かせると、唇を重ねたのだ。
「ん――」
 蒼香は思わず目を閉じると、唇に、志貴の温もりを求めた。それは確かに、蒼香のそれと触れ合っている。それは一瞬のことで、すぐに離れていった。
 目を開けると、蒼香をやさしく見つめる志貴の目と合った。
「もしかして、ファーストキスだったの?」
「うん――」蒼香は思わず唇に触れながら、うなずいた。
 キスなんて、なんてことでも無い。そう思っていた。単に肉体の一部が接触するだけのことだろう。セックスだって、突き詰めれば同じことだ。そう思っていた。だというのに、本当に唇が触れ合った、それだけのことなのに、蒼香は顔がカッと赤らむのを感じた。たかがそれだけのことなのに。キスなんて、羽居がまとわりついて来て、しょっちゅうふざけて交わしているのに。
 蒼香が黙り込んだからか、志貴はなにか誤解して、済まなさそうな顔になった。
「ごめん。女の子のファーストキスなんて、軽々しく奪っていいもんじゃ無かったな。増して、俺みたいな冴えない奴が――」
「ううん、違う違う、わたし、嬉しかったんだ。わたし、志貴さんのこと好きだっていったろう? だから、ファーストキスが志貴さんで良かったって、今思ったんだ。どうせ、わたしの、は、初めても奪ってもらうんだし……」
 いってしまって、蒼香は思わず口を押さえた。志貴も、蒼香も、もうお互いを直視できないで、真っ赤になって黙り込んでしまった。

 ノブをひねると、適温の温水がシャワーから吹き出してきた。蒼香はその下に立つと、頭からお湯を被った。
 あれから、何度も志貴とキスをして、しかしそれ以上進むのに躊躇して、と繰り返していた。何度目かに、蒼香もとうとう、自分が積極的に動かなければ、志貴も動けないのだと悟らざるを得なかった。蒼香の処女を奪ってもらうのだ。志貴にすれば、女の子の処女は凄く重いものだと思い込んでいるのだろう。蒼香にすれば、確かに重みは感じるが、未来永劫守り通していいというものでもなかった。今日は、処女を喪失する事が目的なのだ。その代わりに、大嫌いな父が用意している、意に染まない未来から逃れられるのだ。それくらいなら、お安いものだ。志貴とホテルに入るまでは、密かにそう思っていた。
 しかし――
「やっぱり重いな」
 シャワーを浴びながら、蒼香はそうつぶやいた。
 重い。セックスするということは重い。蒼香の、その方面への知識が偏っていて、しかもごく限られているせいかもしれない。でもやはり、簡単にコトを進める気にはなれない。話が蒼香自身の事情に限られるのなら、割り切ることも出来るだろう。でも相手が、志貴がいる話だ。
「だいたい、こんな身体じゃ、喜んでくれないよな」
 滑る水滴を掌で追いながら、蒼香は自分の身体をなで回した。我ながら、肌はきめ細かで綺麗だと思う。髪も、羽居が熱心に説いてくれるように、短いなりに整っていて綺麗だ。目鼻立ちもきりっとしている方だと思う。だが――
「貧弱だ」
 自分の身体を見下ろして、蒼香はそんな風に総括した。平均胸囲をはるかに下回る胸。子供っぽさがどうにも抜け切らない尻。腰がそれに見合って細いのが救いだが。なにせ、なんでも持っているくせに、胸だけは可哀想なくらい持ってない秋葉より、さらに薄い胸なのだから。いちおう、丸い膨らみはあるけれど、中学生の時の自分と大差ないように思えた。
「志貴さん、こんな身体じゃ興奮してくれないよな」
 そうぼやきながらも、蒼香はその身体を丹念に磨いた。やっぱり、オトコを受け入れるのだから、綺麗にしておきたい。普段、滅多に開いてみたりはしない性器も、指で開いて石鹸を塗りつけておいた。自分の指ですら、この敏感な粘膜にはきつい。まして、赤の他人の器官を受け入れるとすれば――
 考えがそこまで及んだとき、蒼香は胸がドキッと跳ね上がるのを感じた。
「こんなグロテスクなのに、志貴さんのが――」
 蒼香は、我ながら美的にはどうかと思える女性器を開いて見ながら、これから待ち受ける事態に思いを馳せた。志貴さん、こんな身体で悦んでくれるかな、と。

 バスタオルを巻いて、シャワールームを出ると、既にバスタイムを巻いて待っていた志貴が、入れ替わりに立ち上がった。
「あの――」
「ああ、シャワー浴びてくるよ」
 蒼香がなにかを口にするより早く、志貴は慣れた様子でシャワールームへと歩いて行く。
「と、その前に」
「あ」
 蒼香が反応するより早く、志貴は蒼香の方に手を回し、また唇を奪った。少し名残惜しそうに離れて行く唇に、蒼香の目は吸い寄せられた。
「湯冷めしないように室温上げといたから、暑かったら下げていいよ」
 そう言い残すと、志貴はシャワールームへと消えた。
 蒼香は、志貴にキスされた唇に触れた。既に何度も触れ合った唇。だがその度に、蒼香の中に、志貴の存在が刻印されて行く。そんな気がした。
 志貴がシャワールームを出たとき、蒼香は目を閉じ、ベッドに仰臥していた。
「ん、寝てる?」
 志貴の声に、蒼香は目を閉じたまま首を振った。
「起きてるよ――」
 そう答えつつ、志貴に目をやった蒼香は、そこで絶句した。志貴は、なにも身に着けてなかった。
「――」
 赤面しつつも、目を離せない。細身なのに、意外に逞しい身体だった。胸に入った大きな傷が目を引く。それよりもなによりも、志貴の股間に揺れているモノが――
 勃起してる――蒼香はそう思った。男のモノのサイズを正確に知っているわけではない。子供の頃に父や兄と風呂に入ったときに見たきりだ。だが、志貴のモノのサイズは、自分のオンナに収まりきるかどうか、少し不安に感じるほどに思えた。そのことから、勃起しているのだと思ったのだ。
「あの、志貴さん、それって勃ってるの?」
 思わず、我ながら馬鹿かと思うくらい、真っ正直に聞いてしまう。
「うん。まあ、カチカチじゃないけど、かなり勃ってるね」
 志貴は、照れくさそうに答えた。
「俺が恥ずかしがってちゃ、蒼香ちゃんをリードできないだろ? だから、シャワーを浴びたら、堂々と裸を見せようと思ってさ。でも、今から蒼香ちゃんと、その、セックスするんだなと思うと、なんだか興奮しちゃって――」
 蒼香の胸が、きゅんと鳴った。こんな貧弱な自分とのセックスを想像して、志貴は勃起させたのだ。
 蒼香は、ベッドの上に正座すると、吸い寄せられるようにして、志貴のペニスを見つめた。それは、志貴の心拍と同期しているのだろう、小刻みに震えている。志貴の鼓動を感じられるような気がして、蒼香は体の芯に火が点った。
「あ、あの、そんなに見つめないでくれよ」
 すると、志貴は慌てて、ベッドに座り込んできた。真正面から見つめられるのは、さすがに恥ずかしいらしい。
 蒼香は、どこかぽーっとした顔で志貴の方を見ていたが、やがてするするとバスタオルを解くと、その裸身を志貴の目にさらした。
「蒼香、ちゃん――」
「志貴さんにだけ、恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないものな」
 微笑しながら、髪をかき上げて、志貴の目に全身をさらした。せめて、こんな体に欲情してくれたお礼に、と。
「――きれいだよ」
 志貴の手が、蒼香の腰を抱いた。
「あっ」
 蒼香の肩がびくんと震えた。が、そのまま、志貴に身を委ねてしまう。
 志貴は、もう片方の手で蒼香の頬を撫で、髪を指で梳いた。水に濡れた髪が、それでもさらりと指から零れ落ちて行く。
「ん――」
 志貴の手が蒼香を仰向かせ、唇を吸った。そのまま離れるのかなと思ったら、志貴は蒼香の唇を強く吸い、するりと舌を割り込ませてきた。
 思わず、蒼香が喉の奥で声を上げかけると、志貴は深追いはしないで、するりと舌を抜いた。しかし、唇からあごに掛けて、丹念に吸ってくれる。志貴の唇が、蒼香の頬を啄ばむように触れる度、蒼香の体が熱くなってゆく。
 また、舌が差し込まれてきた。今度は驚いて拒絶したりはしなかった。無心に迎え入れる。舌が絡み合う。志貴の舌先が、蒼香の口蓋を、奥歯を、舌の裏を這いまわる。口の中に唾液が溜まって行く。それも、自分のものだけではない、違う味の。思わず、それを嚥下してしまう。自分が淫らな行為に耽っている。そう実感した。
「はあ――」
 志貴の唇が離れて行く。絡み合った舌が、一拍遅れて離れるとき、唾液の糸が橋を架けた。
 志貴は、蒼香の口元の唾液を指で拭ってやりながら、「どう?」と、悪戯っぽく聞いた。
「大人のキスって奴なんだね。なんだか、ぞくぞくする」
 蒼香は正直に答えた。頭に霞が掛かっているようだ。うまく思考がまとまらない。
「蒼香ちゃん、いいんだね?」
 もう一度、確認するように、志貴はいった。もちろん、志貴に処女を捧げてしまうことをいっているのだ。
 蒼香は、なんの躊躇いも無く、大きくうなずいて見せた。
「お願い、抱いて。志貴さんので、わたしを女にして、わたし、わたし、志貴さんのこと、す、好きだから」
 言い終わって、蒼香は思わず赤面してしまった。だが、その言葉は、志貴に絶大な効果を与えた。志貴は、一瞬、なにかを堪えるような顔になったが、
「くそっ――」と、蒼香をベッドに押し倒したのだ。
「蒼香。君がそんな可愛いこというなんて、卑怯だ。卑怯すぎる。もう許さない。俺が、君をめちゃめちゃにしてやる」
「いいよ。志貴、抱いて――」
 志貴は蒼香に覆い被さると、深く深く口付けを交わした。貪るようにして、蒼香の唇を吸い、唾液をすする。蒼香の舌を吸い出すと、互いの唇の間で、淫らがましく絡めあう。
 志貴の唇が、蒼香のうなじを這い回る。敏感な肌に柔らかく、熱い唇が触れる度、蒼香の身体の奥への、なにかの信号が送られて行くかのようだった。
 志貴が蒼香の胸に顔を埋めた。蒼香の唇から、我知らず熱い吐息が漏れた。異性にオンナをさらしたことはおろか、胸を見せたことすらない。思春期を迎え、自分の体に女を見いだすようになってから、異性の目というものからは隔絶された生活を送ってきたのだ。だが今、蒼香はその全てを、志貴の目にさらしている。
 志貴の唇が、蒼香の胸のつぼみを啄む。乳首を唇に挟み、コロコロと転がすように刺激する。舌の平でざわりと舐られるや、今度は乳首を強く吸われる。
 志貴が何かする度に、蒼香の身体の奥底に、熱い炎が広がって行く。
「くすぐったい」
 照れ隠し半分でそういうと、志貴は顔を上げ、くすくすと笑った。その顔を見ているだけで、もう全てを許せてしまう気がした。
 志貴は、蒼香の薄い胸を、それでも両手に包み込んで、下から上へと、何度も撫で上げた。乳首が擦れる度、蒼香は思わず声を上げた。
「敏感なんだね」
 志貴にからかうようにいわれても、反撃する余裕はなかった。体中にぞくぞくした戦慄が走って、そのまま全てを委ねていたい気分だった。
 手を取られ、自分の胸を触らされた。揉みしだくように促される。蒼香は、恐る恐るという風に、自分の胸を揉み始めた。両の乳首は固くなりかけていた。寒い時など乳首が勃起することはあるけれど、快感でそうなるとは思わなかった。掌で乳首をさわさわと撫でると、薄い胸を通して、快感がぞくぞくと駆け上がってくる。もう、乳首がピンと勃っているのが分かった。
 と、不意に、志貴が両足を開かせた。なにか獰猛そうな目で、蒼香の鼠径部を見ている。
 見られてる――蒼香は、全身に火が着いた様に感じた。恥ずかしい。でも、もっと見てもらいたい。
 蒼香のオンナに、志貴の熱い吐息がかかるくらいだ。志貴は、蒼香の滑らかな内股に手を滑らせると、思い切り大きく開脚させた。
「きゃっ」
 これにはさすがに驚いた。が、一拍遅れて、志貴の唇が、蒼香の下の唇に押し当てられる。ビクッと身体を震わせる。志貴の舌が、蒼香の恥丘を這い回る。志貴の舌が、唇がなぞる度、蒼香は自分のオンナの外形を意識せざるを得なかった。そして――
 志貴の指が蒼香の内股を滑り、親指を恥丘に掛けて、押し拡げた。蒼香の、十六年間秘密にしていた部分が露になる。
 はあ、と志貴はうっとり見つめていたが。まるでむさぼるようにしてすすり始めた。
「ひゃうっ!」
 敏感な粘膜に志貴の舌を感じて、蒼香は思わず声を上げた。志貴は蒼香の反応を見るように、蒼香の花弁を外側から、じわじわと蹂躙して行く。
 我知らず、シーツをギュッとつかんで、蒼香は志貴の愛撫に身を任せていた。思わず足を閉じようとして、志貴の頭を挟み込む形になった。それは志貴の舌を、もっと深くまで誘導することになった。
 志貴の舌が、とうとう蒼香のオンナの中心に打ち込まれた。それから襞をなぞるようにして、蒼香のオンナを蹂躙して行く。
「あはっ、あん――あ、ん――」
 快楽というより、志貴の舌が与える衝撃に耐えられず、蒼香は愛らしいよがり声を上げ続けた。自分の性に徹底的に無関心だった彼女は、オナニーの経験さえもなかったのだ。
 志貴の唇が、ようやく蒼香のオンナを解放した。志貴は顔を上げると、口の周りにこびりついたものを、腕でぐいと拭った。蒼香はその仕草をぼんやり見た。志貴は蒼香の手を取ると、蒼香自身の性器へと導いた。
「触ってごらん、ほら」
「あ、あ、あ」
 蒼香は自分の性器の感触に驚いた。そこはとろりと蕩けている。べっとりとぬめる液体がこびりついているせいもあるが、性器自身がまるで緩んでしまっていたのだ。
「これならちゃんと入るだろう?」
 志貴は蒼香にささやきながら、今度は自分の性器へと蒼香の手を導いたのだった。
 それを触って、蒼香はまた驚いた。
「凄い――カチカチ……」
 それは蒼香の手の中で怒張しきっていた。さっきよりよほど大きくなっている気がした。蒼香は、骨格も持たない人体の一部が、こんなに硬くなることに驚いた。それは握り締めた手の中で脈動し、生々しい性を見せつけている。
「入れるよ、蒼香」
 志貴は蒼香の両足を肩にかけてしまうと、その身を屈伸させるように、蒼香の裸身に手を回した。蒼香が目を落とすと、蒼香の花弁に、志貴の肉茎が差し込まれようとしているところだった。志貴は手を回すと、蒼香の花弁からぬめる液体をすくい取って、自分のペニスへとなすりつける。その時になって初めて、蒼香はそれが自分の体液であることを理解した。バルトリン腺液という言葉は知っていたが、実際に自分が性的に興奮して、それを分泌する日が来るなんて、考えたこともなかった。
 志貴は、ペニスの根元を握り、蒼香の膣口をなぞるようにしていた。なにか、なじませる意味があるのかもしれない。二人の粘膜が、触れ合っている。
「いい、蒼香。いくよ?」
 志貴に最後の了解を求められたとき、蒼香はもう心の準備を終えていた。
「うん、いいよ。来て、志貴」
 志貴は蒼香の腰に回した手を抱き締めた。蒼香のオンナの中心に、志貴のオトコがはめ込まれて行く。それは、ぐーっと奥まで突き進んできた。
 ふっ――蒼香は、腹の底から空気を押し出されるような感じがして、思わず息を吐いた。蒼香の腹の底になにかが当たっている。手を回している志貴の腰は、蒼香の腰と密着していた。二人の体は隙無く密着している。ああ、と蒼香は理解した。今、志貴と蒼香の器官が、一つになっているのだ。たった今、蒼香は処女を喪失したのだ。
「動くからね」
 志貴は、優しく告げると、蒼香の中でゆっくり身動ぎをはじめた。志貴の猛々しいオトコが、蒼香のオンナの中を動き始めた。蒼香は今、女になったのだ。
「蒼香――」
 なにかに駆り立てられるように、志貴は次第に動きを早めて行く。ああ――蒼香は、声にならない声を漏らした。蒼香の中に志貴が抽挿される度、蒼香のオンナに軽い痛みが走る。だがそれは、不快なものではなかった。むしろそれは、志貴と強く結びついている証だと思った。
「ほら、つながってるだろう?」
 志貴は、蒼香の手を取って、二人の繋がっている部分へと導いた。
「本当に繋がってる――」
 蒼香の花弁の中心に、志貴の猛々しい肉茎が繋がっていた。
「うれしい――」思わず、悦びの声をあげて、涙ぐんだ。なんだか、すごく嬉しかったのだ。
「くっ――なんで君は、そんなに可愛いんだよ。反則じゃないか」
 志貴の動きが慌しくなった。蒼香に抽挿される激しさが増し、まるで叩きつけるようだ。抱きしめている志貴の背中も、ぬるぬると汗ばんでいる。二人の恥骨がぶつかり合う、乾いた音が続いた。それに、なにかがぬめるような、粘液質の音が伴っていた。
 無意識に唇を求めると、志貴はすぐに激しい口付けをくれた。蒼香の唾液を、舌を、酸素までも奪う激しさで。唾液が二人の口腔でかき混ぜられ、いやらしく粘つく媚薬と化す。蒼香は、それをうっとりしながら飲み下した。
 何分も続いた行為の最後は、思いもかけず、一瞬のことだった。
「くっ――」
 不意に志貴が身を引くと、蒼香の鼠径部といわず、腹といわず、胸や喉にまで熱いものが撒き散らされた。目を下げると、志貴はさっきまで蒼香とつながっていたものを引き抜き、扱いているところだった。扱く度、そこから白濁した液体が吐き出される。それはとうとう、蒼香の顔にさえ掛かった。
 頭が真っ白になった。蒼香は、自分の顔に掛かった精液を、無意識のうちに舐めていた。口の中に生々しい男の匂いが満ちる。蒼香は、迷うことなく嚥下した。
 気が付くと、志貴は蒼香の上に覆い被さったまま、大きく息をついていた。志貴の汗が、蒼香の裸身に垂れ落ちてくる。志貴の唾液も、汗も、そして精液も、今この瞬間は、蒼香のものだった。

 志貴は、はっと我に返ったようだ。
「ごめん、ごめん」
 慌てた様子で、枕もとのティッシュペーパーを何枚も取ると、蒼香の体に掛かった精液を拭い取り始めた。
「ごめん。蒼香の中に出しちゃまずいと思って、でも凄くたくさん外に出しちゃった。気持ち悪かったろう?」
「ううん、そんなこと無いよ。志貴がわたしの体でたくさん出してくれて、凄く嬉しかった。別に、中で出してくれてもよかったんだ」
 志貴に拭い取ってもらいながら、蒼香は上気した顔で答えた。
「それにさ――」
 蒼香は、自分の胸から顔にかけて掛かった精液を拭い取ると、指先についたそれをぺろりと舐った。
「それに、思っていたようなえぐい味じゃないんだね。なんだか、志貴の味ってこうなのかなって」
 志貴は、精液を嬉しそうに舐め取る蒼香を、魅せられたように見つめている。
「でも、やっぱり気持ち悪いだろう?」少し我に返って、そう続けた。
「いいよ、志貴さえいいのなら。わたしは全然悪くないよ。後でどうせ風呂に入るんだしさ。それに――」
 蒼香は、これから自分がやろうとしていることを思って、全身がカッと赤らむのを感じた。
「それに、志貴のがもっと欲しいよ。だって、わたし、今のは確かに良かったけど、性感としてどうかじゃなくて、志貴の女になったのが嬉しかったんだ。もっと、志貴のが感じられるまで、抱いて欲しいよ」
 そういいつつ、蒼香は自分から足を大きく広げた。たった今の行為でぬかるんで、緩んでいる、自分のオンナをさらけ出しながら。
 志貴は、目の前の出来事が信じられないとでも言うように、目を瞠っている。まさか蒼香が、そんな淫らなしぐさをするとは思わなかったのだろう。
「いいだろう」
 志貴は、生唾をごくりと飲みながらいった。
「蒼香が望む通り、蒼香が俺ので泣いてしまうまで、はめまくってやるよ」
 下品なくらいに断言して、志貴は蒼香に覆い被さってきた。大人の口付けを交わしながら、志貴の指はもう、蒼香の花弁を開いている。志貴と蒼香の胸が触れあい、志貴の精液が潤滑材のようにぬめる。
 わたしは、志貴の色に染められて行くんだ――蒼香はそう実感して、歓喜が胸に広がってゆくのが分かった。そして、兄妹である以上、決して蒼香とのような関係になれない親友のことを思い出し、密かに、暗い優越を味わっていた。

 それから二度、ベッドでセックスした。二度目は最初と同じ正常位。次は蒼香が上になっての騎乗位。正直、必死に腰を振っているうちに、志貴が終わってしまったという感じだったが。
「でも、大分感じ始めてるんじゃないか?」
 志貴がそういいつつ、蒼香のルビーを指で弄くっていたとき、蒼香は志貴の上に跨ったままだった。騎乗位で、志貴が蒼香の中で果てた後だった。二度目、三度目と、志貴は蒼香の中で放っていた。蒼香の頭に、妊娠の危険性の認識はあった。だがそれより、志貴が自分の中で果てるという、ぞくぞくするような想像に勝てなかった。事実、志貴が放った熱いものを、自分の子宮で感じたとき、蒼香は性的なエクスタシーに近いものも感じていた。
「だって、蒼香の、こんなに濡れてるんだし」
 志貴の指は、蒼香のルビーから、花弁へと、なぞって行く。二人はまだつながったままだ。蒼香の花弁は志貴のオトコに押し広げられて、可憐なルビーも顔を現している。三戦目に入る前、志貴は蒼香を中腰で立たせ、ルビーを執拗に吸った。体の奥からぞくぞくするような感覚が押し寄せてきたが、それがエクスタシーなのかどうかは、蒼香にはわからなかった。
「でもさ、セックスすれば潤滑油として分泌されるのは当たり前だろう?」
 蒼香は、自分の恥丘を無意識のうちに弄りながら、志貴にそう言い返した。奇妙なくらい、まじめくさった顔だ。
 それに志貴がなにかを言い返そうとして、ふと目があった。どちらからとも無く、プッと吹き出す。
「あはは、こんなカッコで、潤滑油もなにも無いもんだ」
「愛し合いながらする会話じゃないね」
 志貴もくすくす笑いながら言い返した。が、蒼香はその言葉に、ドキッとした。愛し合う、という言葉に、思いもよらないくらい惹かれたのだ。
「志貴――」
 蒼香は、志貴と離れると、志貴の放ったものがダラダラと溢れているのにも構わず、志貴ににじり寄った。
「もっともっと愛して、もっと抱いてくれる?」
 我知らず、わずかに媚びるように問い掛けた蒼香を、志貴は一瞬、飢えたような目で見つめた。
「ああ、いいよ――」
 かすれた声で告げたとき、志貴の目には、既に肉欲の霞が掛かっていた。少し萎び始めていた肉茎が、凶暴な怒張を取り戻してゆく。志貴と蒼香の体液をべっとりとこびり付かせたまま、それはぬらぬらと光っている。
「言っただろう、蒼香が泣くまでやるって。言った通りにするさ」
 志貴はベッドを降りると、蒼香の腰を抱いて、部屋の窓際へと連れて行った。
 狭い部屋だが、窓はかなり広い。その上、小さなベランダまである。志貴は、カーテンをサッと引き開けた。目の前に、三咲の夜景が広がる。結構高い位置にあるホテルだが、少し離れて、同じくらいの高さのマンションが建っている。
「窓に手を突いてごらん」
 蒼香のヒップを撫でながら、志貴がそういった。蒼香は従順にその指示に従った。少し足を開き、ヒップを突き上げるようにすると、いつでも志貴を背後から迎え入れられる体勢になった。しかし――
「こ、このままするの? 外から見えちゃうよ!」
 蒼香は焦りながらいった。明かりは点いてないが、月明かりで部屋の中が良く見えるほどだ。真正面のマンションから望遠レンズで見られたら、一発で分かってしまう。
「でも、凄くスリルを感じるだろう?」
 志貴は、蒼香の尻を愛撫しながら、悪戯っぽくいった。
「凄く燃えるよ、誰かに見られてるかもしれないって思うと。そろそろ蒼香のあそこも、感じ始めてる頃だろう。きっと凄いことになるよ」
「ば、ばか――」
「入れるよ」
 志貴は腰を突き出すと、蒼香の膣口にぐいとねじ込んで来た。
「ひゃうっ」
 蒼香が、思わず驚愕の声を漏らすほど、乱暴に挿入された。志貴は、奥まで挿入すると、蒼香の粘膜となじませるのか、しばしゆるゆると動いた。
「――んっ……」
 蒼香は目を閉じ、思わず自分の真ん中にはめ込まれた、志貴のペニスを意識した。それが蒼香の雌芯を蹂躙している。膣を大きく広げているので、蒼香は自分の器官の形を、今まで思ったことも無かったほど、はっきりと意識せざるを得なかった。自分の中のオンナが、これほど敏感に息づいているだなんて。
 志貴が動き始めた。小刻みに動かすと、次に大きく突き出す。膣口をこじるように動かすと、今度は蒼香の子宮を突き上げるように深く深く打ち込む。その動きの一つ一つが、蒼香の官能を刺激する。蒼香の器官の粘膜は、度重なる行為に充血して敏感になっている。志貴の逞しい亀頭が蒼香の花弁をかき分け、エラが襞を押し広げる。ごつごつした棹が膣壁を擦り上げ、志貴の運動量が蒼香の子宮口を突き上げる――
 志貴がストロークする度に、蒼香のオンナは潤って行く。蒼香は、自分の花弁から零れた蜜が、太股を伝って滴るのを感じた。
「ん、ぅぅん、ぁぁん――」
 鼻にかかった甘い声でさえずる。今までの蒼香を知っている者には、とても信じられない姿だったろう。蒼香はつま先立ちになって、志貴にねだるように尻を振る。志貴は蒼香の小振りな、しかし悩ましげにひくつくヒップを鷲掴みにすると、一つ一つ叩き込むように、ペニスをねじ込んで行く。志貴のオトコが蒼香のオンナをむさぼる度、卑猥な濡れた音が生まれる。蒼香の内股から、とろとろと光る液体が、幾筋も垂れ落ちて行く。
 蒼香は、もう腕では身体を支えられなくて、クタッと前のめりになった。すると志貴は、蒼香の身体を抱え上げ、今度はベッドに向かってうつぶせにさせた。そして突き出した尻に、再び打ち込んだ。
 あーっ――蒼香は悲鳴に近いようなよがり声を上げ続けている。志貴は蒼香の胸に手を回すと、強く揉みしだいた。汗ばんだ乳房を絞るように愛撫し、乳首を指に挟んでキュッとひねる。蒼香はその刺激に耐えられず。頭を振って泣きじゃくった。
「いいよ――いいよ、蒼香」
 蒼香をまっすぐに貫きながら、蒼香のオンナが与えてくれる快感に、酔いしれているようだ。
 クライマックスが近づいていた。
「蒼香、どう?」
 射精をこらえながら、志貴がささやいた。
「なんか、ヘ、ヘンだ――い、いっちゃう!」
 せっぱ詰まった様子で言い返すと、不意に尻を高く突き上げ、枕を抱えたまま戦慄いた。蒼香が達したと知った瞬間、志貴は喉の奥でうめき、それから蒼香の中に強かに射精していた。
 自分の中に志貴の精が注ぎ込まれるのを、蒼香は真っ白な意識の片隅で、うっとりと感じていた。志貴のペニスが脈動する度、蒼香にのっぴきならない事態を引き起こすかもしれない、危険な液体が注ぎ込まれて行く。最後に、志貴が尿道から絞り出すように身体にギュッと力を入れると、志貴の一番熱い滴りが、蒼香の膣奥にとろりと落ちた。
 蒼香は、全身の力を抜いて、ベッドに倒れ伏した。全身が汗まみれだ。その蒼香を、志貴も身体をリラックスさせながら、後戯の愛撫を続けている。
 蒼香は、顔を窓へと向けた。そこには、ベッドに突っ伏した蒼香と、まだ後ろからつながって愛撫している志貴の裸身とが、月明かりに浮かび上がっていた。

 目を開けると、もう窓の外は明るかった。
「んっ――」
 蒼香はしばし天井を見上げると、壁の時計に目をやった。まだ朝の六時。されど朝の六時。月姫蒼香は、生涯初めて、男と一夜を共にしてしまったわけだ。そ ういえば、実家からの電話がまたあったとすれば、寮では蒼香の捜索令が出されているかもしれない。羽居はまるで姉のように気を揉んでいることだろう。
 そうだ、と横を見た。志貴は、まだ安らかな眠りのうちにある。もちろん、志貴が眠る姿を見るのは初めてだが、こんなに安らかに眠る人間を見たのも初めてだ。その志貴だって、秋葉になにもいわずに外泊したのだろうから、大変なことになりそうだ。いいわけを考えないと。
「ま、仕方ないよな」
 蒼香は天井を見て、独り言をした。
「――なにが仕方ないって?」
 えっ、と見れば、志貴が片目を開けていた。
「おはよう、蒼香」
「ああ、おはよう、志貴」
 ごく自然に口づけを交わしてから、不意に蒼香は真っ赤になった。昨日の、志貴との激しい情交を思い出したからだ。確か、ベッドで三回、窓際で一回、それからシャワーを浴びながら二回、最後にベッドに戻って一回だった。初めてだったのに、あんなに燃えるなんて。
 それと――
「なあ、志貴」
「ん?」
「それって、単なる生理現象なのか? それとも、またわたしに欲情してくれたのか」
 蒼香が指差す先、志貴の股間辺りは、志貴が目を開けてから、むくむくと立ち上がりつつあった。
「んー、両方かな」
 志貴は、むくりと起き上がると、二人がまとっていた毛布とシートをはぎ取った。
「なっ、ばか、なにすんだ――」
「こんなかわいい身体が隣にあるんだ。勃起しても仕方ないだろう」
 志貴は、朝の光の下で輝く蒼香の裸身を、熱心に眺めた。
 蒼香は、ムッとした顔をしてみせながらも、身体を隠したりはしない。どうせ、昨夜のうちに散々に愛されてしまったのだから。
「じゃあさ――」
 蒼香はプイッと横を向いてみせて、しかし志貴にちらりと流し目をくれると。
「それ、おとなしくさせないとダメだね。またする?」と、そそのかした。
 志貴の目が、蒼香の裸身を舐めるように這い回る。
「ああ、そうだな――」
 そう答えた志貴の声は、既に欲望が滴っていた。
「そのかわいい身体のせいでこうなったんだから、蒼香に始末してもらわないと」
 蒼香は微笑すると、その身をベッドに横たえ、足を開いた。志貴の目は、蒼香のオンナを飢えたように見つめている。
 志貴の裸身が覆い被さってきた。蒼香は志貴の背中に手を回す。お互いの身体を抱き締め、口づけを交わす。寝腐れた口中をかき回すように、舌と舌が絡み合い、こんな明るい朝の光の中で、淫らな行為が始まった。
 志貴の顔が蒼香の胸に回ると、乳首を舌先で舐め回し始めた。
 あーっ――と、蒼香は昨日憶えたばかりの女の悦びに雌芯を潤わせながら、志貴の愛撫に身を委ねていった。
「あんっ、志貴ぃ!」
 志貴の舌が、蒼香の潤い始めたオンナを這い回り始めた。新しい一日を知らせる朝日が、恋人たちの営みを祝福するかのように、絡み合う裸身を照らし出している。
 ふと、遠野家で待っているだろう、秋葉の顔を思い出した。ごめん、遠野――と蒼香は親友に謝った。これはわたしと志貴の恋愛なんだ。妹のお前さんは、立ち入っちゃいけない世界なんだよ――
 蒼香の思考は、雌芯に挿入されてきた志貴のオトコによって、断ち切られた。月姫蒼香の恋は、まさに燃え上がろうとしていた。

 後で思えば、そんな思い込みが、蒼香のミステイクだったのだ。

<続く>

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