東方月探譚 - 4



「たいへーん、つかさちゃん、このままじゃ地獄に連れてゆかれるよ」



 火はすぐに消し止められました。というより、一緒に氷の塊が撒き散らされたのが幸いし、自然に消火されたのでした。
 しかし、窓ガラスは吹き飛び、床材はめくれ上がり、カーテンは焼け焦げている惨状です。これで騒ぎにならないはずがありません。が、それにも関わらず、寮生たちは一向に起きてくる気配がありません。それどころか、いつも神経質な管理人すら姿を現しません。秋葉たちが、恐る恐る寮内を見て回ると、寮生たちは一様に安らかに眠り続けていたのです。
「ははあ、あの遠野のお兄さんが、悪い術を使っているな?」と、蒼香。
「蒼香、あんなのを勝手に兄さんにしないでよ! それで、術を解く手はあるの?」
「心配は要らないんだぜ。この手の術は、術者が離れれば切れるに決まってる。あのお兄さんの気配がきえたから、もうすぐ目を覚ます」と、魔理沙が請合います。
「それはそれでいいとして、問題は、どうやってこの状況を説明すればいいのかしら……」
 秋葉は途方に暮れます。廊下は滅茶苦茶、なぜか寮生一同眠り病、おまけにつかさが素っ裸で倒れている始末。これを首尾一貫した論理で言いくるめるのは、いかな秋葉とはいえ不可能事に思えました。と、すると。
「寝たふりしてやり過ごしましょう」
「それしかないようだな」
 秋葉と蒼香は、即座に合意に達します。
「ええっと、魔理沙はどうするの?」
「心配要らない。わたしは一度博麗神社に戻ってから、また夜にここに来るよ。あいつがまた幻想郷に侵入しているかもしれないから、ちょっと調べてきたいんだぜ」
「分かったわ。また夜に」
 魔理沙は、シュタッとばかりに手を振って見せると、箒にまたがって、破れた窓から飛び出して行きました。
「そうだ、羽居は……」
 心配になった秋葉と蒼香は、取るものも取りあえず自室に取って返します。そこで発見したのは、空っぽのベッドと、その側ですやすや眠り込んでいる羽居の姿でした。
「羽居に任せた結果がこれだよ」
 蒼香はため息を吐きながら、羽居を揺り起こします。
「わあ、蒼香ちゃんおはよう」
「おはようじゃねえよ」
「羽居、あの人はどうしたの?」
「わあ、空っぽだ」
 羽居の間抜けなリアクションに、秋葉も蒼香も怒る気力を無くします。これを狙ってやっているのなら相当のものですが、そうではないのが羽居の羽居たる所以です。
「もう、わあじゃないわよ。あら?」
 秋葉は、空っぽのベッドに紙片を見つけました。
「なになに、『あいつを追います。ごめんなさい。さつき』」
 横から覗き込んだ蒼香が、声に出して読みます。
「追いかけちゃったんだ、あの子」
「そうね。逃げればいいのに」
 秋葉は思わず考え込みます。あの女の子が、あの男の支配下に入りかけているのは間違いないようです。危ない橋を渡っていると自分で気づけばいいのですが。
「おっとっと、そろそろ警備の人がやってくるぜ。遠野、どうするよ」
「うまくやりすごせればいいけどね」
 秋葉たちは廊下に顔を出しますが、その惨状に躊躇します。自分たちが関わっている証拠を残していなければいいのですが。
「ねえ秋葉ちゃん、つかさちゃんはどうしよう?」
 素っ裸で転がっているつかさに目をやった秋葉、即座に『放っておきなさい』と答えようとしました。が、そうなると、この状況がますます混沌とし、もはや誰にも合理的な説明が不可能になりそうです。
「仕方ないわね。部屋に放り込んでおきなさい」
 やがてやってくる学校側当局者の調査が長引くのを恐れた秋葉は、つかさを現場から引き離しておくことに決めました。羽居がつかさを部屋に放り込んでくると、秋葉たちは急いで自室に戻ります。間一髪、ベッドに潜り込むなり、どやどやと複数の足音が階段を登ってくる、騒がしい気配が近づいてきました。
「ふう、今夜は眠れそうに無いわね」
「まあ、その分楽しめたよな」
「明日は、魔理沙ちゃんとまた会えるね」
 先行きを心配していた秋葉ですが、気楽そうなルームメートの言葉に開き直ります。また明日には、魔理沙との捜索が待っています。今は少しでも眠ろうと、ともかく目を閉じました。

 学園は、昨夜の事件の話題で持ちきりです。生徒たちは教室のあちこちに固まって、寮での椿事に関する憶測をささやき交わしています。なにせ、かの階には学園最大の撹乱要因、浅上三人官女が鎮座しているのですから。とはいえ、直接秋葉に尋ねる蛮勇を揮う者は無く、さりとて蒼香に聞いてものらりくらりとかわされるのは目に見えています。勢い、質問は羽居に集中するわけなのですが。「えー、眠ってたからわかんないよー。なんだか賑やかな夢を見てたんだよー」と、これもうまくかわしています。いや、羽居のことなので、もしかしたら本当に夢の中の出来事だと思い込んでいるのでは、などと考えてしまう秋葉です。ちなみに四条つかさは、一段と深い昏睡状態にあったため、医師の診察を受けました。が、これも『なにも憶えてません』と証言した模様。秋葉の一撃で記憶が飛んだのでは、とはルームメイトたちの憶測です。
 学校は、警察と共同で寮の現場検証を進め、秋葉たちも三々五々事情聴取に呼び出されました。が、秋葉を含む寮生たちは、一様に熟睡していたと証言するばかりです。これは偽証とはとても考えられず、また現場の異常な状況を寮生自身が作り出したとも考えにくいものです。結局、かの事件は『青天の霹靂よろしく巨大な氷塊が寮を直撃し、そこに落雷があって小規模な火災が発生、そのガスを寮生が吸い込んで軽い昏睡に陥っていた』などと一応の結論が出された模様です。ともかく、寮の修復が先決と、現場検証が済むなり即座に業者を呼んで見積もりが始まったのは、上流階級の子女を預かる学校だけのことはあります。なんでも、屋根に装甲板を仕込むらしいという噂も流れました。
 放課後、秋葉たちが寮に戻ると、廊下の破損部分には覆いが仮設され、既に工事が始められているようでした。幸いにして、破損は廊下の窓側に留まっていたので、寮生たちは部屋から追い出されずに済んだのでした。
 さて、ディナーが終わり、就眠前の点呼が行われると、いよいよ魔理沙の到着を待つばかりです。秋葉たちは抜かりなく、お茶とお茶菓子を用意して待ちます。と、ほとほととドアを叩く者が居ます。まさか魔理沙が、と思いつつ秋葉が細く開けてみると、そこに居たのは思いがけない相手でした。
「瀬尾、それに四条さん?」
 一人は秋葉の後輩、学園中等部の瀬尾晶でした。そしてもう一人は、因縁の四条つかさ――
「何の用かしら」
 廊下で遣り合うのも目立ちすぎるので、取りあえず自室に招き入れましたが、秋葉は自然に詰問口調になります。晶は置いて、つかさは昨日暴れた相手なのだから、警戒するのも当然です。が、無視された形の晶は、なにか心臓の悪い人がホラー映画を見せられているような、恐々とした顔です。一方で、つかさは、思いつめたような顔になっています。
「あの、遠野さん」
 しばしの沈黙の後、つかさは思い切った様子で切り出しました。
「わたしも連れて行って欲しいの」
「あなたを、どこに?」
 やはり忘れてなかったのか、と秋葉はひやりとしたものを感じましたが、取りあえずとぼけてみます。
「あいつを探しによ。わたしを操ろうとした、あの男を」
 秋葉は眉をひそめます。あの、さつきと書置きしていった女の子といい、なぜあの男を追いかけようとするのでしょうか。
「そりゃいかん。きっと、あいつに魂を引かれかけているんだぜ」
 秋葉はえっと顔を上げます。いつの間にか、魔理沙が現れていました。魔理沙を迎え入れるために窓を開けていたのですが、音も立てずに窓枠から半身を乗り入れています。まるでシーフさながらです。
「わあ、魔理沙ちゃん、いらっしゃい」
 羽居が迎え入れると、魔理沙はよっこらしょ、と部屋に滑り込みます。
「約束通り、また来たんだぜ」と、箒を置きながら、汗を拭います。
「わっ、わっ、わっ」
 ところが、なぜか強い反応を示したのが、晶でした。目が輝いています。
「かわいいですねー。その服は自作されたんですか?」
「服? ああ、そうだけど」
「わあ、そうなんですか。お仲間もいらっしゃるんですか?」
「まあ、同じ森に魔法使いが住んでるんだぜ」
 なにか質問の意図をつかめず、魔理沙は目を白黒させています。どこかずれた会話を交わさざるを得ません。晶があまりに興味津々で、しかもこの場ではあまりに浮いた存在なので、戸惑っているようです。
「おっと、晶、同人の話はそこまでだ」と、蒼香が止めに入ります。晶はハッとした顔になって、「えへへ、すいませんでした」と恥らいます。魔理沙は、最後まで話が飲み込めなかったようで、生返事を返すばかりです。
「んで、四条の出番だよ」
 つかさは、突然に展開が変わり、状況に追随できないでボーっとしていました。が、蒼香の誘導で、なにかを思い出したような顔になります。また、どこか追い詰められたような顔になると、秋葉にすがるような目を向けます。
「お願い。あいつが夢に出てくるの。わたし、このままじゃおかしくなってしまう――」
「落ち着きなさい」
 つかさが凄い顔で迫ってくるので、秋葉はやや嫌そうな顔で、それでも宥めます。
「あいつって、昨日あなたの後ろに立っていた奴ね?」
「そ、それは分からないんだけど――」
 つかさは口ごもります。そういえば、あの時、つかさは既に失神していたはずで、その後に現れたあの男のことなど知る由もないのです。
「とにかく、夢に出てくるの。あいつが出てくるの。しつこくしつこく、何度も出てくるの。わたしに来いっていうの。僕になれっていうのよ」
 つかさは、髪を振り乱して訴えます。それを羽居は親身かつ心配そうに、他三人は醒めた目で見ています。
「それはまずいわね。四条さん、あなたはある悪党の呪いにかかったのよ。このままでは木偶にされて思うがままに使い捨てられてしまうわ」
 秋葉は突き放すように言います。
「そ、そんな――なんとかならないの?」
「そうね。できるだけ、その悪党から身を遠ざけておくこと。心安らかに過ごすこと。お父さんお母さんへの感謝を忘れないこと。これよ」
 秋葉はまじめくさった顔で言います。が、言っていることはなんだか適当です。そばで聞いている蒼香にも、果たして本気なのかなんなのか判断がつきませんでした。
「そ、そうね。他に道がないのね。でも他二つはともかくとして、その悪党から遠ざかるなんて、どうすればいいの?」
「この寄宿舎でおとなしくしていることよ。出来るだけ外出を避けて、普通の生活を続けること」
「で、でもっ、あいつがやって来たら――」
「奴は闇に生きるものよ。奴が付けねらうのは、日常生活から足を踏み外し、怨念の無間地獄へと落ちかかっているものを付け狙うのよ。四条さん、あなたのようなね」
「そ、そんな――」
 つかさは大きな衝撃を受けたようです。もっとも、傍で聞いている魔理沙にも、秋葉がなんだか適当なことを言っているように思えたのですが。そういえば、蒼香はまじめくさった顔をしてはいますが、なんだか笑いを噛み殺しているようにも見えます。
「たいへーん、つかさちゃん、このままじゃ地獄に連れてゆかれるよ」
 そういう腹芸の通じない羽居は、心底心配そうに、深刻そうに言います。それが余計につかさの不安を煽るようです。つかさは涙目になって、秋葉にすがりつきます。
「た、助けて遠野さん。もう恨まないし、あの時のことはみんな忘れるし、機会があれば追い落としてやろうなんて考えないから」
 やっぱり恨みを忘れてなかったのね、と秋葉は内心苦々しい思いを抱きます。が、この場でそれを追求すれば、ますます話が拗れてしまうだけです。澄ました顔で、つかさに続けます。
「だから、日常生活を続けるのよ。けっしてやましい気持ちを抱かず、お父様お母様神様仏様イエス様孔子様への感謝と畏敬を忘れず、平常心で誰をも赦して笑って暮らしなさい。後ろから金属バットで殴られても、拳銃で撃たれても、怒りを抱かず、誰をも笑って赦して、一刻も早く涅槃に至るのよ」
 まあ、それはそんな生活してれば涅槃行きでしょう、と秋葉も自分の言葉ながらあきれ果てていましたが、とにかくつかさを宥めて追い返さなければなりません。鋼鉄の自制心で、慈母の微笑を作って続けます。
「そ、んな――できるわけ……」
 つかさは涙目になって反駁しかかりますが、秋葉のどこか高圧的な微笑を見て、急に気持ちを改めたようです。無理やり、自分を納得させるように、深くうなずきます。
「そ、そうね。奴に付け入る隙を与えちゃダメなのよね。さもないと、じ、地獄に落ちるんだから」
 つかさは、なにか苦いものを飲み込むような顔になると、そのまま秋葉たちに背を向けて、部屋を出て行きます。衝撃が大きかったせいでしょう。礼も、おやすみも告げないでの退場です。
 秋葉たちは、一斉に息を吐きます。
「とにかく、追い返したな」
 やれやれ、と蒼香は頭を掻きます。
「上手に追い返しちゃったねー。さすが秋葉ちゃん」
 羽居も手をたたいて褒めます。
「今の話、どこまで本気なんだか分かんないんだぜ?」と、魔理沙は首を傾げています。
「これでも、かなり本気なのよ。あの悪党は、どうやら人の心の隙に付け入って、支配しようとしているように見えるの。だから、まずは身を遠ざけることよ」
「そりゃ一理あるな」と、蒼香もうなずきます。要するに、危ない場所には近寄らないようにしましょう、ということなのですが。
「で、瀬尾」
 秋葉は目を晶に向けました。咎めるような色を見た晶は、ビクンと身を竦ませます。
「どういうことなのかしら、こんな時間に寄宿舎を抜け出して。しかも四条さんを伴ってなんて。なにを企んでいるの? そんなに四条さんを亡き者にしたいの?」
「ち、違います。四条先輩とは、たまたま部屋の前で会っただけなんですよぉ」
 晶は、涙目になっています。
「遠野、その辺にしといてやれ」
「秋葉ちゃん、いじめ過ぎだよー」
 蒼香と羽居にたしなめられて、秋葉はやや不満そうながら矛を収めます。
「で、どういう事情なのかしら?」
「は、はい。実はわたし、予知能力がありまして。詳しいことは面倒なのですっ飛ばしますが――」
 スイッチが入れば頭の回転も口も速い晶のこと。かの偽志貴事件の顛末をべらべらをまくし立てます。黙って聞いていた秋葉ですが。話が終わると、やれやれという顔になっていました。
「そういう事情で、兄さんと知り合ったの。なんだ、それなら正直に話してくれたら、私だって咎めだてはしないのに」
「そ、そうでしたか。不覚です――」
 秋葉のあっさりした言葉に、晶はがっくりと肩を落とします。いったい、秋葉のあらぬ嫌疑を晴らすために、晶はどれだけ要らぬ苦労を重ねてきたことでしょう。いや、晶にだって、実のところ下心皆無というわけではないのですが。
「んで、その未来視だっけ。それがここに来た理由と関係あるんだな」
 蒼香が話を戻します。
「は、はい。実は昨夜の事なんですが」
 晶は打ち明けます。昨日、寄宿舎を抜け出そうとしたのだと。
「じ、実は原稿を落としそうだったので、同人仲間のお部屋にお邪魔して仕上げようと考えたんです」
「あなたは、もう、どうして自分を大切にしないのよ――まあ、それは置いて、続けなさい」
「は、はい。それで、窓から抜け出して、森の中を歩いているときでした。その、黒い男の人を見たんです」
「黒い男?」
「はい。その、黒いとか言いようが無くて。見た目というか、その、なんだか内面的に真っ黒だなと」
 秋葉たちは、その言葉をかみ締めます。あの男以外の何者でもないと、即座に理解したからです。
「状況が状況でしたし、その、物凄く危ない気がしたので隠れたんですが、その男の人は私のところにまっすぐにやってきてしまったんです。もう見つかっていたらしくて――」
「瀬尾、なにもされなかった? 大丈夫だった?」
 秋葉は、先輩として厳しい口調を保ちながら、心配そうな顔になります。
「はい。別になにかをされたというわけじゃありません。その男の人は、木陰に隠れたわたしの前に回りこむと、急にニヤッと笑ってこういったんです。『秋葉の匂いがする』って」
 秋葉は、いらいらと指先で肘を叩いています。
「その瞬間に、その、見てしまって――」
「なにをだ?」
 秋葉たちが押し黙っているので、魔理沙が思わず口を挟みます。
「わかりません。その、多分未来視なんだろうと思います」
 晶はうつむいて、口ごもります。が、すぐに顔を上げて続けました。
「そ、それで、一瞬意識を失ってたんですが、顔を上げるとその男の人が去ってゆくところでした。ホッとしましたよ。男の人は森の方に歩いていきました」
「そうか、なにもされなかったんだな」
 蒼香はホッとした様子です。
「瀬尾、それだけで私たちのところに来たの?」
「いいえ、確かに遠野先輩の名前は出ましたが、それだけじゃないんです。その、未来視の中身が問題なんです」
「なにを見たのかなー?」
 緊迫した雰囲気を和らげようというのでしょうか。問い返したのは羽居です。確かに、一時だけ、なんとなく空気が和らぎます。
「見えたのは、多分神社の神前だと思います。そこがなぜか真っ赤に染まっていて、その、多分血の色だと思うんだけど――その真ん中で、ひらひらした服を着た巫女さんみたいな人が、こう、逆さに吊り下げられていて――」
 晶の言葉は尻切れトンボになりましたが、それが見た全てなのでしょう。周囲では、秋葉たち三人は戸惑いの色を浮かべています。一方で、魔理沙は腕組みをして、どこか深刻そうな顔になっています。
「巫女、か。あいつかなあ……。あいつなら、よほどのことが無い限り、大丈夫なはずだが」
「魔理沙に心当たりはあるのね」と、秋葉が聞きます。
「巫女なら二人ほど。しかしどっちも神様のご加護が強いんで、よほどのことが無い限りはつかまったりしないはずだ。まして、神前でだなんて」
 五人とも、黙り込んでしまいします。あの男、そして“さつき”と書き残した女の子、さらに晶の未来視。いったい、どんな事態が進行しているのでしょう。
「ともあれ、こちらの片はついたわね。四条さんの性格からして、しばらくは危ない場所に寄り付かないでしょうし。四条さんは級長だから、他に危なそうな子も見張ってくれるはずよ」
「上手いこと考えたな、遠野」と、蒼香は感心します。
「で、魔理沙の方の状況はどうなの?」
「ああ、奴の痕跡を見つけたんだぜ」
 魔理沙の答えに、秋葉たちはきらりと目を光らせました。
「じゃあ、幻想郷とやらに、また侵入したの?」
「そういうこと。今は結界を管理している妖怪が監視している」
「結界? 妖怪?」
「ああ、幻想郷には外から誰も入れないように結界を張ってるんだぜ。その結界は神社に祭られてる神様の力を借りて、そこの巫女と、とある妖怪が張ったもんなんだぜ」
「妖怪が、神様と協力?」
「まあ、妖怪ったって害の少ない奴だけど――現物を前にした方が早いかな」
 魔理沙は窓を開くと、箒を手に立ち上がりました。
「さーて、幻想郷にご案内。一度に一人ずつなんだぜ」
「あの、わたしは」
 晶は急な展開についていけてません。
「もちろん来るのよ。その巫女さんの顔、あなたしか分からないでしょう」
 こうして、晶も引きずり込まれることになったのでした。

<続く>

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