誕生日の捧げ物


 微かな頭痛を意識しながら、目を開けた。
「――つっ……」
 なぜか、脳髄に冷たい棒を差し込まれたように、頭の真ん中に痛みが走る。が、それは一瞬にして消えていった。そこに悪いものが集まっていて、彼女の目覚めに急いで散っていったとでも言うように。
「――――」
 胡乱な思考のまま、闇に目を向ける。といっても探るようなものではなくて、漫然と走らせるだけだった。胡乱な思考をそのまま反映して、その視線もノロノロと闇をさ迷うばかり。闇――そう、彼女は闇の真っ只中に居た。
  微かに呻きながら、顔を左右に降る。目に映るのは暗闇。ここが広いのか、狭いのか、それすら見当もつかなかった。が、ようやく一つの手がかりを得た。彼女 の背中に当たる柔らかい感触、それは確かに、分厚くて寝心地のいい布団のそれに間違いなかった。そういえば、頭の下にあるのは枕。もしかしたらキングサイ ズくらいありそうな。
 同時に気づいたのは、シーツの直接な感触だった。裸のままベッドに寝ているのだと、彼女はようやく自己を認識した。ん、わたし? 彼女は小声でつぶやいた。わたしは、月姫蒼香で間違いないよな――と。
  微かに身じろぎする。さらりとしたシーツが、微かに汗ばんだ素肌に心地よい。素肌か。ふと、あることに気づいた。どうやら、彼女は全裸らしい。裸のまま、 どこかのベッドに寝かされている。それだけは理解した。しかし、どうしてこんなに手足が動かないのだろう。なにかに絡め取られているように、自由が利かな い。
 ぼんやりしたまま、五感を四方に漫然と投げる。視覚は闇以上のものを見出さない。聴覚は混乱している。だが嗅覚は何かを嗅ぎ付けた。じっと りと湿り、微かに漂う刺激的な匂いは――なにか思い当たるものがあった。が、それはぼんやりした思考のなかで掴みかねているうちに、するりとどこかに逃げ てしまった。
 微かにため息を吐いた。この胡乱な気分のまま、再び眠ってしまおうかと思ったとき。
「目が覚めたかしら?」
 不意に、すぐ目の前から声を掛けられた。えっ、と目を凝らしてみる。闇の中に、ようやく白い影が、朧に見えてきた。誰かがいる。
「ふふっ、ちょっとクスリが効き過ぎたかしら?」
 楽しげな声は、耳慣れたものだ。
「遠野?」
 声の主は、クラスメートで蒼香の親友の、遠野秋葉に間違いなかった。とすると、ここは寮の部屋なのか。
「遠野、わたしはどうなってる? なんだか鯨に飲まれちまったような気分だ」
 蒼香のぼやきに答えるように、真っ暗闇に微かな明かりが灯った。本当にささやかな明かり。だがそれは、その目的を十分に果たした。蒼香の目の前にいるはずの、親友の姿を浮かび上がらせるという。
「遠野――」
 思わず、喉がヒュッと鳴った。驚いた。なぜならば、秋葉もまた、全裸だったからだ。
「鯨に飲まれた、ね。蒼香らしいひねくれた言い回しね」
 秋葉はくすくす笑っている。厚ぼったさや引っ掛かりというものに縁遠い体型に、蒼香は一時見惚れた。華奢さと精巧さを感じさせる肩のライン。薄さより流麗さを見せ付ける胸の造形。そして中性美すら感じさせる腰から腿に掛けてのカーブ――
 見慣れているはずだし、その全てを手で愛撫し、キスしたことさえあるというのに、蒼香はその美に打ちのめされた。我知らず唾液が湧いてきて、自然に嚥下していた。
 蒼香が見とれているのを理解したのか、秋葉は楽しげにくすくす笑っている。少女らしい大きな瞳は獲物を見据える猛禽のように細められ、愛らしい唇の端はキュッと釣りあがっている。小悪魔的に、いやむしろデモニッシュに。
「あなたのそういうところが大好きよ。蒼香、これからも友達でいてくれるわね?」
 秋葉は蒼香に覆いかぶさってくると、悪戯っぽい目で蒼香を見つめながら、腹から胸に掛けて急に撫で上げた。
「あひっ!」
 ただ撫でられただけだというのに、蒼香は電撃が走ったように感じた。特に、秋葉と変わらないくらい起伏に乏しいラインの中で、唯一自己主張している胸の蕾を撫でられた時に。
「な、なにするんだよ!」
 体の中を走り抜ける戦慄に抗いながら、蒼香は秋葉に文句をつけた。
「蒼香は敏感よねえ。軽く撫でただけで感じちゃうんだもの」
  秋葉は、蒼香の抗議を無視してみせると、掌での愛撫を続けた。その繊手が、蒼香の臍の辺りから、喉元に向けて何度もなで上げる。脂肪の薄い、しかし少女ら しく柔らかい鳩尾から、低い隆起を示す乳房へと掛かると、わざとゆっくりと通り過ぎてゆく。少し汗ばんだ掌が撫で上げるたび、蒼香は喉の奥で小さく声を漏 らした。
「気持ちいいのね。うふふ、クスリが効いてるんだわ」
「クスリ……?」
 身を走る快感に耐えながら、蒼香は問い返した。
「そう、クスリよ。蒼香を気持ちよくするクスリ」
 秋葉はくすくす笑っている。しかし、蒼香にはまるでおぼえが無い。クスリを飲ませたといわれても、さっきまでの自分の行動が、まるで記憶に残ってないのだ。そもそもここはどこで、自分はなぜこうなっているのか。
「だから、ね。今日は楽しませてあげるわよ」
 秋葉は楽しげに、そして熱心に、蒼香の身体を愛撫する。
「バ、バカっ、楽しませるも何も、なんだってあたしがこんな目に――ひんっ!」
 蒼香がなおも抗議しようとするのを察したのか、秋葉は攻撃の手段を替えた。蒼香の乳首に口づけをしたのだ。
 秋葉は、ちろり、ちろりと鮮やかな朱色の舌を蠢かせると、蒼香の乳首をくるりと舐め上げた。そして乳暈に唾液を擦り付けてゆく。
「んっ、んっ――――と、遠野、よせよもう……」
 蒼香の力無い抗議は、こみ上げてくる快感に断ち切られた。秋葉の舌が突起を刺激する度、蒼香はこらえきれない嬌声をあげる。
 だが秋葉は耳を貸す素振りを見せない。ちゅっと音を立てて、蒼香の乳首を吸い始めた。秋葉の唇が、蒼香の未成熟な乳首を吸う度に、快楽の電流が駆け巡ってゆく。
 蒼香の胸を吸いながらも、秋葉の手は働いている。蒼香の背中に回された手は、その滑らかな背中を愛撫し続けている。背中を撫でられているだけだというのに、もっと敏感な部分をそうされているように、快感の信号が発せられてしまう。
「んっ、あっ――も、もう、どうなってるのよ」
 秋葉の猛攻に晒されつつも、蒼香にはなぜこうなっているのかが、さっぱり分からない。身を捩って逃れようにも、身体はがっちりと掴まれている。
 掴まれる――? ふとなにかに思い至り、蒼香は両手の先に目をやった。暗い。相変わらず暗い。だが仄かに光を映す秋葉の裸身のおかげで、朧げな視覚が得られた。蒼香の両手を、たくさんの手が掴んでいる。蒼香は、無数の手に捕らわれている。思わずゾッとする。
 そんな蒼香を、秋葉はまたしても不意討ちした。急に顔を寄せると、たっぷりと、覆いかぶさるようにして、口づけを浴びせてきたのだ。
「やっ、遠野――やめっ、んーっ――――」
 秋葉は悪戯っぽく蒼香を見つめながら、蒼香の唇に舌をねじ込んできた。唾液が流し込まれ、蒼香も思わず嚥下する。そして侵入してきた秋葉の舌を、次第に混濁してきた頭で意識するや、半ば反射的に舌で受け止めた。
  ねちゃ、ぴちゃと、粘液質の音が続く。秋葉の舌が蒼香の歯列をなぞると、蒼香は自分の舌を絡めた。呼吸が苦しくなり、ますます頭が朧になってゆく。そんな 蒼香の様子を見てか、秋葉は舌をするりと抜いて、気道を開放してくれた。しかし舌先で蒼香の唇をなぞり続けている。蒼香もその舌と舌を突き合わせている。 もう、頭がぼーっとして、なにも考えられない。秋葉の成すがままだ。そしてそれ以上に、体が熱くて、疼いて仕方が無い。
 これがクスリの効果なのかな――秋葉との行為に溺れる自分を意識しながら、蒼香はようやく、そんな思考を結んだ。
 秋葉の手が、蒼香の下腹部を撫で始めた。
「本当になんにも憶えてないのね? 今日はあなたの誕生日パーティーじゃないの。だからこうして、みんなであなたを祝福しているのよ」
「誕生パーティ……?」
「そうよ。ステキでしょう?」
  秋葉の指が、蒼香の下腹部を撫でる。微かに、触れるかどうかという愛撫。それはとてももどかしくて、蒼香の感覚を余計に引き出してしまう。蒼香の薄い恥毛 に触れるかどうかという、羽毛のような手触り。触れて欲しい、でもそんなふしだらな態度は見せたくない。そんなもどかしさが、ますます蒼香の心情を切羽 詰ったものにする。いっそのこと、その指を蒼香の恥ずかしい部分に思い切り突き立て、思う存分にかき回して欲しかった。そしてそんな想像を抱くことで、余 計に切なさが募ってしまうのだ。
「誕生日か。そうだった……」
 危険な快楽のスパイラルに揉まれながら、蒼香はそのことをようやく思い出した。確かに、秋葉に『今日は私の家でパーティーにしない?』と誘われたことを憶えている。でもそれは、まるで遠い昔のことのように思える。
「うぅン!」
  不意に、秋葉は攻撃の方法を変えた。蒼香の昂ぶりを察したのだろう。掌全体で、蒼香の下腹部を包み込んだのだ。そのまま、恥丘をこね回すように愛撫する。 蒼香のそこは、まだ子供っぽくて少し膨らんでいる。大人の女らしい平べったい翳りに変わる前の、どこかインモラルな幼さを残したそこ。秋葉は中指をぴった り閉じた割れ目にあてがうと、掌全体で揉み解すようにする。
「あ、はっ……。遠野ぉ――」
 秋葉はわざと割れ目を開かない。蒼香の恥丘をすり合わせるようにして愛撫する。蒼香自身の媚肉がこすれ合って、敏感な部分を刺激するように。じんじんと快感が募ってきて、蒼香は思わず腰を突き出した。
「ふふ、暴れちゃダメ。身体を痛めちゃうわよ」
 蒼香を押さえつける無数の手。その先、闇の中で、くすくすと気に合った忍び笑いが聞こえてきた。一体、何人いるんだ――蒼香の頭に、恐怖のようなものが過ぎった。
「んー……」
  秋葉は、また蒼香に顔を寄せると、その唇を丹念に吸い始める。浅上の嗜みというわけではないが、閉鎖的な女子校の寮生活の中で、同性愛的な行為は日常茶飯 事だった。その中でも、蒼香と秋葉は、頻繁に身体を重ねてきた方だろう。なぜならば、二人の同居人は、万能接着剤とも言える三澤羽居だからだ。羽居が好奇 心から蒼香にちょっかいを掛けるたびに、秋葉は劣情を掻き立てられるらしく、いつの間にか蒼香と行為する破目になる。だから、蒼香と秋葉は、お互いのカラ ダのことを知り尽くしていた。
「うふふ、もうこんなになってるのね、蒼香。相変わらず、責められると弱いのね」
 秋葉は、指先に蒼香の愛液を絡めて、粘つくそれを蒼香に示した。
「遠野の、バカ……。そんなに弄られたら、誰だって――」
  恥ずかしさと情けなさ、そして耐え難い快感に、蒼香は涙を流している。そんな蒼香を、秋葉は愛おしむように、いたぶる様に、唇と指先で奏でる。舌を蒼香の うなじに這わせ、その優美な指先で女性器を愛撫する。あえてじらすように、蒼香の淫花を開かない。すべすべした恥丘で花弁を、雌芯を挟み込んで刺激する。 肉と肉が擦り合わされる、直接的な、そのくせどこか一拍置いたような刺激に、蒼香は次第に追い詰められていった。蒼香はもう処女ではなかったが、女同士の 行為がもたらす快楽は、オトコがもたらすそれよりも好みだった。
「あはっ――あ、ン――」
 秋葉の、どこか焦らす様な攻撃は、時間を掛け て蒼香を高ぶらせていった。今にも蒼香の中で、なにかがはじけそうだ。だがひくつく媚肉は、こんなに張り詰めているのに、一向に決壊しそうに無い。もどか しさ、恥ずかしさ、いやらしさに、蒼香の正気は揮発しきっている。そんな蒼香を、秋葉はまるでバイオリンのように自在に奏でている。割れ目から溢れた蜜 を、その指先で太腿から下腹部へと塗り伸ばしてゆく。蒼香の淫らが匂い立っている。
「ふふ、後があるから、これくらいで楽にしてあげる」
 秋葉はそう囁くと、親指で蒼香の雌芯を押しつぶした。
「ひぁ!」
 蒼香は腰を突き上げた。あっけなく達してしまう。肉花の奥から蜜があふれ出して、シーツにぽたり、ぽたりと垂れ落ちる。
「どう、気持ちよかったでしょう?」
 秋葉は嫣然と微笑むと、指先についた蒼香の蜜を、ぺろりと舐め取った。
「ちくしょう……、散々な誕生日だよ」
 放心した表情のまま、蒼香は力なく毒づいた。その癖、その声には歓喜が滲んでいる。
「なあ、もういいだろう? 離せよ」
  蒼香は、自分を押さえつけている腕たちにいった。もう、闇に慣れたその目には、その手の持ち主たちの姿が見えていた。蒼香のクラスメート、学校での友人た ちだ。みんながみんな全裸で、蒼香の横たわる大きなベッドを取り囲んでいる。何かを企むような、面白がるような目をしている。
「じゃあね、蒼ちゃん。次はわたしの番だよ」
 秋葉と入れ替わりに、ふわりとした丸みを帯びたシルエットが現れた。秋葉と同じくルームメートの、三澤羽居だった。
「次は羽居かよ」
「そうだよー、蒼ちゃん。たっぷり楽しませてあげるからね」
 羽居は、嬉しそうに蒼香にじゃれ付いてきた。蒼香とは対極にある、羽居のスタイル。少々まぶしいものだった。特に嫌味なくらいにたゆたゆと揺れる、豊かな胸の双丘は。
「もう離してあげてね。わたしが蒼ちゃんを可愛がってあげるんだから」
 羽居の言葉に、手たちが一斉に離れていった。まるで群体制物のように、不気味なくらい気の合ったところを見せている。
「んー――」
 羽居は、蒼香の唇を吸った。秋葉の技巧を感じさせるそれとは逆の、素朴なキス。それだけに、羽居の温かみと匂いが感じられた。
「よいしょっと」
 羽居は、蒼香の上に覆いかぶさってきた。何かを企むような目をしている。
「いったい、どんな風に楽しませてくれるんだ?」
 蒼香は、羽居の大きな乳房に手を伸ばした。気まぐれな血統種の猫のように扱いづらい秋葉と違って、羽居は大きくて人懐こい大型犬を思わせた。そんな羽居に迫られると、蒼香もついつい気を許してしまう。
「うふふー。こんな風にだよー」
 羽居は、重そうな乳房を蒼香の胸に合わせると、よいしょ、よいしょと揺さぶり始めた。
「うはっ」
 お互いの乳首がこすれあう刺激に、蒼香は思わず仰け反った。羽居の柔らかくて重い乳房。それは柔らかいだけではない、若さゆえの張りがあるものだ。
「蒼ちゃんはオッパイが小さいから、凄く敏感なんだよね」
 羽居は、放っておいてくれと言いたくなるようなことを口走りながら、蒼香の乳首を愛撫した。乳首をすり合わせ、掌で撫でまわし、口付けして、あまがみする。
「うンっ――」
 羽居の連続攻撃に、蒼香はまたしても仰け反った。邪気の無い、一心な愛撫は、身構えようにも構えようが無い。蒼香の心の装甲を、易々と貫いてくる。
「ほらあ、蒼香ちゃん、もう乳首固くなってるね? それと、あそこも大変になってるね」
 蒼香の乳首を舐めまわしながら、羽居は蒼香の性器にも手を伸ばした。指を差し込んで、恥丘をぱっくりと開いてしまう。中に溢れていた蜜が、とろりと滴り落ちる。
「あ、あン――羽居ぃ……」
 快楽に身を委ねながら、蒼香は羽居の乳房を下から持ち上げる。指がずぶりと埋まってしまうくらい、そのくせみっしりした肉に跳ね返されそうなくらいだ。
「蒼香ちゃん、吸いたいの? わたしのオッパイ吸いたいの?」
 羽居が身体をずらし、蒼香の目の前に乳房を持ってきた。ピンク色の乳首が、目の前に差し出される。蒼香は躊躇い無くむしゃぶりついた。赤ん坊のように、その乳首を吸い始める。
「あはっ、蒼香ちゃん、かわいい」
 羽居も感じているようだ。蒼香の舌の先で、乳首が見る見るうちに固くなって行く。
 羽居は、乳房を吸わせながらも、蒼香の性器を愛撫しつづけている。指先で溝を深くえぐり、膣口を解すようにしてつついている。その刺激と、羽居の乳房の柔らかさに、蒼香は陶然としている。
 ずるいよな、遠野も羽居も――と蒼香はぼんやり考えた。体の小さな蒼香の全身を愛撫するのは、彼女たちからすれば容易なことに違いない。
 と、周囲の闇から、くぐもった嬌声が聞こえてくるのに気づいた。一つだけではない。いくつも。
 みんなヤッているんだ……。蒼香は、その淫靡な空気に、だんだん酔っ払ったようになってきていた。空気が淫らな湿り気を帯びてきて、媚薬のように作用し始めている。
「晶ちゃん、そろそろ手伝ってくれるかな」
  羽居は、闇の中に声を掛けた。すると、その中から小さな影が進みだしてきた。やはり全裸の、蒼香たちよりさらに幼い感じの少女は、後輩の瀬尾晶だった。羽 居が人懐っこくてマイペースな大型犬なら、こちらは健気な小型犬。一心に慕うその性格に、上級生から、特に秋葉や蒼香から可愛がられていた。
 晶 は、幼い肢体を朱に染めている。まだ中学生の晶は、スリーサイズは蒼香と大差ない――いや実は蒼香より勝っている――のだが、にもかかわらず子供っぽい身 体に見える。やはり、大人になりきってないというのは、一目瞭然だ。そんな晶が全裸で、しかも股間からなにやら滴らせつつ歩み寄ってきたのは、インモラル で目を離せなくなるような光景だった。
「月姫先輩、あの、わたし、一生懸命にご奉仕しますから」
 晶はそう告げると、なんの躊躇いも無く、蒼香の女性器に顔を寄せてきた。
「あ、晶、馬鹿野郎」
 後輩ににじり寄られるという状況に、蒼香は思わず身を起こし、逃げ出そうとした。
「ダメだよー、蒼香ちゃん。晶ちゃんがせっかくご奉仕してくれるっていうんだからー。逃げちゃダメだよ」
 しかし、羽居がその重い肉で、蒼香を押さえつけてしまう。その隙に、晶は蒼香の足に手を掛け、左右に開いてしまった。
 はあ、とため息をつく晶。
「先輩、可愛いです。こんな綺麗な桜色のあそこなんて――」
 そして晶は、蒼香の花弁を吸い始めた。
「んっ、あっ、あっ――あ、晶!」
 晶の舌が、自分の幼い花弁を這い回るのを感じて、蒼香は思わず声を上げた。そしてそれは、すぐに抑えがたい嬌声に変わっていった。
 晶は、一心に蒼香の花弁を、雌芯を舐っている。舌を舌から上に、下から上に、何度も何度も舐り、舐り上げてゆく。そのしつこい刺激に、蒼香は急激に上り詰めていった。
「あンッ、ダメだよ――おかしくなっちゃうよ」
  蒼香は身をよじり、我知らず嬌声を上げつづけている。羽居がキスして、蒼香の口をふさいだ。くちゃくちゃと、舌と舌が絡み合っている。羽居の手が蒼香の乳 首を、うなじを、わき腹を愛撫し、晶は子犬のように一心に、蒼香の雌芯を嬲る。粘液質の音が続く。そしてBGMのように、周囲の闇からは、淫靡な喘ぎ声、 嬌声が聞こえている。
「んんっ、晶、やめて、やめて、もうおかしくなっちゃう!」
 晶は盲目的に蒼香の雌芯を舐り上げ、舐り上げつづけている。その果てしない刺激に、蒼香は気が狂いそうになってきた。快感に気が狂いそうになるなんて、今まで体験したことが無い。
「蒼香ちゃん、イキそう? イッちゃっていいんだよ。今日は蒼香ちゃんのお誕生日なんだから」
 羽居が蒼香の首筋にキスを浴びせながら、唆すように囁いた。
「いやっ――いやあぁぁぁぁっ!」
 最後の瞬間、蒼香は羽居と晶を突き飛ばす勢いで腰を反らし、シーツを掴んで仰け反った。秘裂から蜜が飛び散る。それは晶の顔に降りかかった。
 大きく息をつきながら、真っ白な頭のままで、蒼香はベッドに横たわり、放心している。全身からなにかを搾り取られたような気分だ。
「あはっ、良かったでしょう? わたし、上手だったでしょう?」
 蒼香から離れながら、羽居が悪戯っぽくいう。ぼろきれになった気分の蒼香は、なにも言い返す気になれなかった。
「ほらあ、晶ちゃん。もうそこまでだよ」
「あ、あ、はい」
 まだ蒼香の雌芯を舐めつづけている晶を、羽居はようやく引き剥がしてくれた。ボーっとした顔で、晶は無意識に、顔に飛び散った愛液を舐め取っている。
 羽居と晶が闇に退くと、ベッドには蒼香だけが取り残された。もうどうでもいい気分だった。盛大に蜜で塗らした秘部を開陳したまま、ひたすら天井を見上げている。喉が渇いていた。
「月姫様、お水をどうぞ」
  と、闇の中から、聞き覚えのある声が。闇の中から進み出てきたのは、やはり遠野家使用人姉妹の妹の方だった。驚いたことに、いやこの場にふさわしい事に、 翡翠も全裸だった。わずかにヘッドドレスのみ身に着けている。さらに驚いたことに、今まで周囲の熱戦に参加していたようで、その肌は汗や様々な分泌物で湿 り、光っていた。股間からも、なにかが滴り落ちている。しかもそれは、その白濁振りから考えて、男性の分泌物のように思えた。
「あ、ありがとう」
 翡翠が差し出した盆の上には、氷水が入ったグラスが載っている。それを受け取ると、喉を鳴らして飲んだ。身体が生き返るようだ。
 グラスを開けながら、翡翠の様子をちらりと見ると、無表情ではあるが、明らかに恥らっているようだった。この状況で、翡翠の状態に突っ込むのも躊躇われたので、素直にグラスを返却する。
「ねえ琥珀――」
 闇の中から秋葉の声が聞こえてきた。
「蒼香は、パーティーが始まってからの記憶が無いっていうけど、大丈夫なの?」
「まあ大丈夫だと思いますよ。月姫様に処方したおクスリは、ショックを受けると前後の記憶を無くす作用がありますから。予想の範疇ですよー」
 闇の中から別の声が答える。こちらは、使用人姉妹の片割れの方か。
「そう、ならいいけど」
「遠野、お前さん、いつの間にそんなものを飲ませたんだ」
 やっとベッドから身を起こし、蒼香は秋葉の声がした方に目をやった。闇に慣れてきた目は、絡み合ういくつもの肢体の一つが、秋葉のものであることを見通していた。
「あなたが屋敷にやってきて、最初にいれてあげた紅茶に仕込んでおいたのだけど、憶えて無いわよね」
「そんなもん、わからないよ」
 ふてくされて、蒼香はそっぽを向いてしまった。秋葉はくすくす笑っている。
「これだけ刺激してあげたんだから、凄く敏感になってるわね」
 秋葉はベッドににじり寄ると、そういいつつ、蒼香の太股に指を走らせた。
「――!」
 蒼香は声を押し殺したが、びくんと体が跳ねるのは抑えられなかった。秋葉の言う通り、蒼香の体はとても敏感になっている。クスリの効果なのだろうか。
「じゃあ、メインディッシュね」
 秋葉が退くと、代わりに新しい人影が、ずいと進み出てきた。
「あっ――」
 その人影は、明らかに男性だった。体つきの話だけではない。股間に屹立している器官が、蒼香のオンナに訴えてきたのだ。しかも、その体つきも、そのオトコの器官にも、蒼香は馴染みがあった。
「志貴――」
「蒼香、誕生日おめでとう」
 志貴の顔は見えなかったが、天を突くほど勃起しきったペニスが、祝福するように揺れている。その硬さを子宮で思い出してしまい、蒼香は自分の器官が、蜜を垂らしながら身じろぎするのを感じた。びくんと雌芯がうずく。
「どう、気に入ってくれたかい? みんなで相談して、蒼香にとって忘れられないパーティにしようって、知恵を出し合ったんだ」
「ああ、確かに忘れられなくなるね」
 かなり捨て鉢な気持ちで、蒼香はため息をついた。
「心だけじゃなくて、きっと体も忘れられなくなる。大将、どうしてくれるんだ? わたしは一年間禁欲した売女のように、あそこがうずいてるんだ」
「もちろん、メインディッシュをご馳走するよ」
  暗がりで、志貴はくすくす笑っている。いつもの志貴らしくなく、邪悪そうで悪びれた笑い。だが、ベッドの上での志貴は、いつもそうだ。蒼香の知っている唯 一の男。蒼香を女にした男は、志貴だった。親友の兄という関係でしかなかったはずなのに、ふとした行きずりで関係を持って以来、蒼香はかなり頻繁に、志貴 に抱かれていた。
「まったく。おまえさんは想像を絶する女誑しだよ。いつの間に、みんなとやっちまったんだ?」
 周囲の娘たち、秋葉、羽居、クラスメート、そして晶さえも、志貴と関係を結んでいることを、蒼香は確信していた。思い返せば、みんないつの間にか女になっていた。限りなく無菌状態に近い浅上に暮らす娘たちがだ。そしてその原因は、今となっては明らかだった。
「いや、別に食ってしまおうと思っていたわけじゃなくて。なんていうか、成り行きでさ」
 幾分、いつもの志貴らしさを取り戻しつつ、志貴はしどろもどろに答えた。
「まったく。蒼香の言う通り、兄さんの女誑しぶりは異常です。どうやってわたしの友人たちに触手を伸ばしたのやら」
「いやあ、だから――ごめん、秋葉」
 どうも、妹に頭が上がらないのは変わらないらしい。
 秋葉はため息をついて見せた。
「まあ、兄さんの女性関係の整理計画については後で話すとして、今は蒼香を楽しませてあげるのでしょう?」
「うん、そうだな」
 志貴は力強くうなずくと、蒼香の方ににじり寄ってきた。蒼香が見つめているのは、志貴のガチガチにそそり立った器官だった。その硬さが自分の器官を満たし、子宮の底を激しく連打する様を思い浮かべてしまう。それだけで、蒼香は新しい愛液が分泌され始めるのを感じた。
 志貴の器官は、たった今まで続いていたらしい行為で汚れていた。女の蜜をたっぷりまとわりつかせ、先端には射精の名残がこびりついている。それもたった今出したばかりのようだ。
「兄さん、それは失礼というもの。私が清めて差し上げます」
「待って、わたしにやらせて」
「わたしも!」
  秋葉が歩み寄るより早く、志貴の、正確にはそのペニスの左右に、二人の娘が駆け寄った。一人はクラスメートの四条つかさ。もう一人は寮長の環だった。つか さは秋葉に少し色付けしたくらいの、やはりスレンダーな肢体の持ち主だった。一方、環は悔しいくらい、出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという 体型。ショートで、ボーイッシュな雰囲気の彼女なので、余計に扇情的だ。
「そう。じゃあ、お願いするね」
 志貴が腰を突き出すと、二人の娘はその肉茎を丁寧にしゃぶり始めた。
「んん、ああん」
  つかさは、目を閉じて、悩ましげにおしゃぶりしている。典型的な優等生タイプの彼女が、こんなインモラルな行為に夢中になるなんて。学校で過ごしているだ けでは、想像もできない事態だ。一方、環は、なにか面白がるような目で蒼香をちらちらと見ながら、志貴の先端から根元まで、巧みに刺激している。志貴の官 能が高まっているのは、剛直がますます硬くなっているらしいのと、時折聞こえる志貴の呻き声から明らかだった。
 つかさは手を自分の性器へと忍ばせて、慰めているようだ。蜜がかき混ぜられる、いやらしい音が続いている。
 環のそこからは、既に幾筋もの光るものが滴り落ちている。それが自慰の結果ではなくて、男との、つまり志貴との行為の結果なのだと、蒼香はすぐに気付いた。環の体からは、つんという精液の臭いが漂ってくるからだ。
「つかさちゃん、環ちゃん、そろそろ」
 志貴が苦しげにいった。
「いいじゃありませんか、兄さん。兄さんのことだから、まだ全然平気でしょう? 蒼香に兄さんのシャワーをプレゼントしてあげて」
 秋葉が唆すようにいうと、志貴は腰を少し引いて、二人に更なる奉仕を促した。
「うん、ん、うん――」
「はっ、はっ、はっ――志貴さん」
 つかさはイク寸前のようだ。環も興奮が募っている。
「四条、寮長――いつの間に、志貴に食われたんだよ」
 蒼香は信じられない思いで、二人の痴態を見ていた。二人と志貴の接点など、ほとんど皆無なはずだ。これも成り行きというのだろうか。
「くっ、蒼香ちゃん、かけるよ」
「あ、あー――」
 志貴に肉茎がびくんと跳ね上がると、次の瞬間、蒼香の顔へと白濁した液体が降りかかってきた。身構える余裕もなく、志貴の精液が、蒼香の全身に降りかかってくる。久しぶりに嗅ぐ、青臭い男の臭い。蒼香は陶然としてしまう。口元に降りかかったそれを、ぺろりと舐めとった。
「さあ、ケーキカットだ」
 まだ先端から滴っているというのに、志貴は剛直を、少女の器官へとねじ込んできた。その形容通り、つつましく閉じた恥丘が押し広げられると、蒼香の膣一杯にペニスが挿入されてきた。
「あ、ン――」
 蒼香は身じろぎすると、志貴の剛直を深く迎え入れようと、腰を持ち上げ、誘った。少女の雌芯を、男の猛々しい剛直が貫く。
「志貴っ、志貴ぃ!」
 こんな異常な状況であれ、愛しい男の硬さを膣奥で感じてしまえば、蒼香は恋する少女になってしまう。志貴とつながった嬉しさに、最後の自制も吹き飛んでしまった。自分で腰を振りながら、志貴のものを少しでも深くくわえ込もうとする。
「本当に可愛いな、蒼香は」
 志貴が口付けをくれる。蒼香は無意識に舌を伸ばして、志貴の舌を迎え入れた。少し扱い難いくらいクールに見える蒼香だが、ベッドでは驚くほど従順だ。そして志貴にひたすら奉仕する。
  志貴は蒼香の両脇に手をつくと、大きなストロークで動き始めた。蒼香の膣奥まで打ち抜いて、子宮に達するかと思うくらいに。その硬さを子宮の底で感じてい る。こつこつと突き上げられるたび、蒼香のオンナは蜜をたらす。その蜜は激しいピストン運動に溢れ出し、蒼香の下腹部に、そして真っ白な太股に塗り広げら れてゆく。まるでバターのようだ。くちゅ、くちゅと、いやらしげな音が、規則的に続いている。
「凄い……凄いよぉ。志貴の、凄いよお」
 意識が飛んでしまう寸前まで追い詰められながら、蒼香はうわ言のようにつぶやいている。蒼香の幼さの残る器官を志貴の猛々しいオトコが蹂躙する様を、周囲の娘たちが見つめているのも知らないで。
「じゃあ、そろそろ奥にあげるよ」
 志貴は蒼香の両足を肩に掛けてしまうと、ペニスを根元までねじ込み、引き抜き、ねじ込んだ。恥丘も花びらもあられもなく開き、卑猥な船底型の淫ら花を見せつけている。
「あひん――志貴ぃ、もう、蒼香は飛んじゃうよぉ」
 目尻から涙を流しながら、蒼香は訴えた。志貴の背中に爪を立て、かきむしる。
「いくよ――」
 奥歯をかみ締めて数瞬、志貴は最後の瞬間を引き伸ばしたが、ついに我慢しきれずに放っていた。
「ああっ、ああああぁぁぁぁぁぁ――!」
  待ち望んでいたモノ、志貴の熱い滴りをはらわたに感じて、蒼香はついに達した。自分の中にどくどくと放たれ続ける液体。それが危険なものであるからこそ、 志貴が自分を愛してくれた、そして自分が志貴の愛を受け入れた確かな証になるのだと、蒼香は信じていた。志貴のペニスの脈動を感じながら、蒼香の未熟な器 官も脈動し、愛しい男の分身を絞り上げる。一滴でも多く滴りを受け止めて、危険性を少しでも高めてしまおうとでもいうように。
 意識がふっと途切れ、また気が付いたとき、蒼香は志貴とねっとりと口付けを交わしているところだった。本能的に口を開き、志貴とちろちろと舌を付き合わせ、絡み合わせている。
 蒼香の中でゆるゆると身じろぎすると、志貴はようやく体を起こした。ふうっと息をついて、笑みを浮かべる。その笑みには蒼香もやられている。ベッドでどんな酷い目に合わされようとも、そうやって笑顔を浮かべられると、もう抗議する気が失せるのだ。
「――本当に、志貴はタフだし、凄いな。わたしのはらわたが、志貴のザーメンまみれになってるよ」
 素直に感想を口にしたつもりだが、いつの間にか蒼香らしい毒が混じっていた。志貴はくすくすと笑った。
「その分ならもう一回はいけるね? 俺も大丈夫だよ。さあ、クライマックスだよ」
「えっ、えっ、あっ――」
 志貴は蒼香の体を裏返した。つながったまま、二人の体勢は後背位に変わった。すると、周囲から手が伸びてきて、蒼香の体を持ち上げてしまう。
「誕生日おめでとう、蒼香」
 志貴は再び動き始めた。さっきよりさらに強く打ち込み始める。たった今、あれだけ放ったというのに、少しも萎びていない剛直を、蒼香の子宮へと叩き込む。
「おめでとう、蒼香」
「おめでとう、月姫様」
 おめでとう、おめでとうと口々に祝福しながら、周囲の娘たちは蒼香の体を持ち上げ、愛撫し始めた。
「なっ、ひゃっ、いやあぁぁぁ!」
  全身にどっと手が、舌が伸ばされてきて、蒼香はとうとうパニックに陥った。手たちは蒼香を持ち上げたまま、その全身を愛撫している。秋葉が蒼香の唇を吸 い、環たちが両胸に吸い付いている。誰かがわき腹に舌を這わせ、さらには蒼香のもう一つの敏感な穴にすら舌が這いまわっている。志貴との接合部、蒼香の雌 芯を舐める舌付きは晶のものか。全身から快楽が押し寄せてくる。しかもそれは薬の作用によるものか、常のそれよりもずっと直接的だ。
「あンっ、いやだよぉ、どうにかしちゃうよぉ――」
  体の隅々まで弄ばれて、蒼香は気が狂いそうだった。快楽と恐怖に追い詰められているのに、どうにも終わりが見えない。蒼香の唇を、みんなが代わる代わるに 吸う。それぞれ香りの違う唾液が蒼香の口中に溢れ、唇から垂れ落ちる。乳首は唾液と汗でテラテラと光り、どの瞬間にも誰かの唇の間にあった。下腹部から結 合部へと這い回る唇と舌は、蒼香の官能を昂ぶらせ、追い詰めてゆく。そして重奏低音のように、志貴の剛直が蒼香のオンナを貫き、子宮を突き上げ、リズムを 作る――
「さあ、蒼香ちゃん。いつでもイケるね。そろそろクライマックスだよ」
 そう告げる志貴の声には、忍耐が限界に達する予兆があった。
「だめぇっ、もう、蒼香は壊れちゃうよぉ!」
 最高の快楽は、苦痛に限りなく近いのだと、蒼香は今この瞬間に思い知っていた。
 次の瞬間、志貴のペニスが膣内で弾けた。再び、溢れ返る精液が、蒼香の子宮に叩き込まれた。
「いやあぁぁぁぁぁっ!」
 蒼香の意識は放り投げられ、そして落ちていった。蒼香の絶頂の寸前、たくさんの唇が蒼香の粘膜をあまがみし、たくさんの指がきゅっとつねったのだ。それらの強烈な快感に打ちのめされ、蒼香はようやく待ち望んでいた事態を迎えた。つまり、失神したのだ。


 という夢を見た。
「――なに、この夢」
 蒼香は最悪の気分で目覚めた。寮のベッドの上。いつものような朝。だが気分は最悪。
「夢かよ、ちくしょう」
 毒づきつつ、蒼香は身を起こした。窓の外では、小鳥たちが朝の身繕いをしている。さわやかな朝。だが気分は最低だった。
「いててて」
 蒼香は頭を抑えた。昨日はどうしたんだっけ。そうだ、確か蒼香の誕生日だったから、パーティやるということで……どうしたんだっけ? さっぱり思い出せなかった。
「とにかく、起きないと」
 蒼香はもぞもぞと身じろぎして、ベッドを降りた。とにかく、こうして浅上の寮に居るということは、あれが正夢でもなんでもない、単なる悪い夢だったということだ。
「しかしまあ、みんなで出てきて、わたしをいじり倒すことは無いじゃないか」
 気分が悪かった。体は鉛の板で隈なく覆われているようで、重く、のろのろとしか動かせない。しかしぼやぼやしていると、洗面所は人で溢れ返ってしまう。特にこんな気分の時には、誰とも顔を合わせたくは無い。
 隣のベッドを見ると、羽居が幸せそうに眠りこけていた。
「まったく。お前さんがわたしの体にちょくちょくちょっかい出すから、あんな変てこな夢を見ちまったじゃないか」
  そのおでこをピンとはじいても、羽居が起きないのは分かりきったこと。むにゃむにゃ、蒼香ちゃん、などと寝言を言っている。蒼香はクスリと笑うと、洗面所 へと急いだ。もう少し注意力があれば、羽居の体に染み付いた淫臭、特に男の分泌物のそれに気付いたかもしれないが……。
 洗面所に入る直前で、秋葉とばったり出くわした。ちょうど戻るところだったようだ。
「おはよう、蒼香」
「ああ、おはよう」
 あまりにもいつもと変わらない親友の態度に、蒼香は思わずいつもと同じように返していた。
「なあ遠野、昨日は――なにがあった?」
「あら、憶えてないのね」
 秋葉はため息をついた。
「羽居がアルコールをたんまり飲ませたせいかしらね。みんなでお祝いしたじゃないの」
「ああ、やっぱりそうか」
 そんなところだと思っていたのだ。秋葉の言葉を、浅上でこっそりアルコールパーティを開いたということだと解釈した蒼香は、勝手に納得していた。
「ねえ、なにも憶えてないの?」
 秋葉が、少し心配そうにいう。
「うん、どうやら」
 咄嗟に脳裏に浮かんだのは、あの信じられないくらい激しかった淫夢のことだ。だが、そもそも夢の終わりの方しか憶えてなかったし、夢だからまったく実感を欠いていた。
「そうなの――」
 秋葉は、効きすぎたのかしら、と小声でつぶやいた。
「まあ、みんなで祝ってくれたんだろう? ありがとよ。今後ともよろしくな」
「ええ。こちらこそ」
 秋葉が嫣然と微笑み返す。蒼香はその答えに満足すると、トイレへと消えていった。その背中を見る秋葉の眼は、なにか面白がるような、邪悪そうな色が宿っていた。
 蒼香は、トイレに駆け込むと、急いで下着を引き下ろした。体全体が低調だが、腹具合も良くない感じだった。
「うーん、久しぶりに志貴に会いたくなったなあ。なんだか、時々抱いてもらいたくなるんだ」
 蒼香は少しずつ調子を取り戻しながら、こっそり付き合っている男のことを思い出した。付き合っているとはいえ、愛人というべき関係なのだが。昨日誕生日だったんだというと、祝ってくれるかな、などと思った。
 それにしてもおりものが多いな――と、少しだけ不審を憶えはしたが、志貴に会うというアイデアの前に、あっという間に掻き消えてしまった。後で電話しようと思った。そして会ってくれとねだってみようとも。本人がなんと言おうと、その顔は恋する少女のものだった。
  だから――もう少しおりもののことに気を向けるべきだったのかもしれない。たらり、たらりと滴り落ちるそれは、常のそれよりずっと白濁して、粘ついてい た。それは明らかに男の分泌物。蒼香の膣を満たし、子宮まで溢れているそれは、少しずつ、少しずつ、便器へと垂れ落ちてゆくのだった。

<了>


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